菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(139)

掲載日時 2017年01月28日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年2月2日号

◎快楽の1冊
『がん消滅の罠 完全寛解の謎』 岩木一麻 宝島社 1380円(本体価格)

 少し前にこの書評コーナーで浅ノ宮遼『片翼の折鶴』を紹介した。医療ミステリーの連作短篇集である。確かにこの医療ミステリーというのは、確固たる文芸ジャンルとして確立されているようだ。好んで読むファンはそれなりの数いるのかもしれない。例えば海堂尊はこの分野における人気作家だ。『チーム・バチスタの栄光』や『ジェネラル・ルージュの凱旋』が代表作で、ドラマ化、映画化もされている。
 さて本書『がん消滅の罠 完全寛解の謎』も医療ミステリーである。第15回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞作だ。殺人事件と医学界を結び付けて書くのか、そうではなく殺人を絡めないで書くのか、それは作家の発想の自由なのだが、本書は後者のタイプである。
 主人公は日本がんセンターに勤める医師だ。彼、夏目典明は度々不思議なケースと出会った。余命短いはずのがん患者が保険金の生前給付金を受け取った後、なぜか回復し病巣が消えてしまうのである。
 生命保険会社で働く夏目の友人・森川は部下から率直な意見を聞く。これは不正受給を企んだ詐欺行為ではないか、わが社は被害を受けているのではないか、と。しかし、その企てを成功させるには友人の夏目も積極的に加担しているはずだ。森川はそう思いたくなかったが、黙って放置しているわけにはいかず、夏目に直接、このケースについて詳細を問うことにした。だが、夏目自身も不思議に思っていたのだ。彼らはほかの友人も含めて協力し謎の解明を目指す。
 なぜ死んだのか、ではなく、なぜ生還したのかという謎の設定がそもそも独創的だ。読み進めるうちに夏目たちの推理に引き込まれていく。死と生は表裏一体であり、いずれも私たちにとって大きな関心事である。生のほうに重点を置いた逆転の発想が実にいい。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 『夫のちんぽが入らない』という衝撃的なタイトルの1冊が、話題になっている。著者は「こだま」というペンネームの女性だ。もともとは同人誌に掲載されていた自伝的エッセイだったが、それが扶桑社から発売された(1300円+税)。
 著者は大学入学のために上京し、1人の男性と出会う。引かれ合い、カラダの関係を結ぼうとする。だが彼は、男性器を著者の中に挿入させることができなかった。やがて結婚するも、現在までの20年間、1度たりとも貫通していないというのだ。
 なぜ「入らない」のか…。ネタバレになるのでここでは伏せるが、じつは著者は他の男性のモノなら入る。夫も他の女性だったら、入ることもある。
 つまり、この夫婦は互いの身体的な相性が最悪なのである。
 著者はこのことを、誰にも相談できずにいる。親からは「子どもはまだ?」と急かされる。友人同士で夫婦生活の話題になっても、ついていけない。心は孤立を深めていく。
 夫婦のセックスレスなどという問題が軽微に思えるほど深刻だ。愛し合っているのに、セックスしたいのに、できないのだから…。
 だが著者はやがて、カラダの関係をも超えた新しい夫婦の形を模索し始める。セックスとは、男と女とは、夫婦とは、子どものいない家庭とは…などなど、今の日本が抱えるさまざまなテーマを提起しつつ、それでも前向きに生きる女性の物語を、ぜひ本誌のオヤジ世代読者にオススメしたい。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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