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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第160回 震災時の「談合」が「罪」なのか!?

掲載日時 2016年02月05日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年2月11日号

 1月20日、信じられないニュースが飛び込んできた。東日本大震災で被災した高速道路の復旧工事をめぐり、大手道路舗装会社4社が「調整役」となり「談合」したとのことで、東京地検特捜部と公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いで強制捜査に乗り出したのだ。

 2011年3月11日、東日本大震災発生。太平洋岸の高速道路が津波により、あちこちで分断されてしまった。東京方面から東北へ救援部隊を派遣しようにも道路が通れない事態になった。特に沿岸を走る国道45号が通行不能になったため、大量輸送を伴う救援活動が、ほぼ不可能だった。
 国土交通省は被災地の各県や自衛隊、土木・建設事業者と協力し、緊急輸送道路を「くしの歯型」に切り開くことを決定。最も被害を受けた海岸沿いの国道45号の復旧は後回しにし、まずは東北自動車道と国道4号線を優先的に通行可能とする。その上で沿岸被災地に「くしの歯」として、救援活動のための物流チャネルを確保することになった。

 「くしの歯作戦」第1ステップは、東北自動車道と国道4号という縦軸ラインの確保であった。総勢52の土木・建設業者のチームが投入され、被災地への啓開作業が始まる。啓開とは、災害時における1次対応で、「災害発生→啓開→応急復旧→本復旧→復興」という一連の流れの基礎となる工程を意味する。
 第1ステップで縦軸(南北)のラインが回復し次第、第2ステップとして三陸被災地域へのアクセスとなる「横軸」の啓開が進められた。東北自動車道、国道4号から東へ「くしの歯」を伸ばしていき、救援部隊を送り込むためのチャネルが確保されていく。
 早くも震災4日後の3月15日時点で、15の東西ルートが通行可能となった。
 くしの歯作戦第3ステップは、国道45号の啓開だった。第2ステップ完了後、休むことなく作業は続けられ、3月18日までに国道45号の97%が通行可能となる。
 土木・建築業者の方々の不眠不休の努力により、世界が驚くほどの速さで被災地への物流ルートが確保され、救援活動が本格的に始まった。その後も道路復旧作業は続いたのだが、それが「談合である」と公正取引委員会が問題視し、強制捜査が行われたのだ。

 当たり前の話だが、大震災という非常事態が発生した際に、平時同様のんきに「公共入札」などやっていられるはずがない。とにもかくにも早急に復旧工事を開始し、道路を通行可能としなければ、被災地の復興はおぼつかない。
 早期の道路復旧のため、特定の道路会社が「調整役」として各業者に仕事を割り振り、速やかに道路を復旧させるための努力がなされたとしても、不思議でも何でもない。というより、むしろその手の調整が行われなかったと聞いたら、筆者は驚いてしまう。
 何しろ、東日本大震災は道路復旧が人命に関わる非常事態だったのだ。被災者の命を守るために、現場が相談し、最も速やかに道路復旧が可能な形で仕事を割り振ったとして、罪になるとでもいうのだろうか。
 罪になる。と、公正取引委員会は考えているようである。言葉を選ばずに書かせてもらうと、「狂気」だ。

 今後、強制捜査に入った公正取引委員会と東京地検特捜部がいかなる結論に至るのかは分からない。とはいえ、「震災時の道路復旧のための仕事の割り振り」までもが独占禁止法違反ということで刑事罰の対象になってしまうのでは、今後、わが国がまたもや大震災に見舞われた際には、東日本大震災のような早期の道路復旧は不可能になることだけは間違いない。
 何しろ、現場で仕事を調整するだけで独占禁止法違反に問われるのでは、大手道路舗装会社にしても、率先して何もしようとはしないだろう。結果、道路という物流の基盤がいつまでたっても復旧せず、被災地で国民が死んでいく。

 怖いのは、本件に関する各紙の報道を見る限り、
 「震災発生時の談合が本当に悪なのか?」
 といった論調が全く見られない点である。日本国民は、非常事態発生時には「市場競争」「公正調達」といった寝言を言っていられないという“常識”すら理解できないほどに愚民化してしまったのか。

 そもそも、日本の土木・建設の供給能力を維持し、かつある程度の競争を維持するために、「指名競争入札+談合」というシステムが悪であるとは全く思わない。日本が自然災害大国である以上、各地に土木・建設企業が存続してもらわなければ困る。加えて、各企業が競争することで、土木・建設業界には生産性向上に努めてもらわなければならないのだ。
 「各地域に企業を存続させる」
 「企業間競争により土木・建設分野の生産性を高める」
 この二つを両立させるために、「指名競争入札+談合」という知恵を先人たちは生み出した。指名競争入札で「地元」の企業を優先し、公共入札を落札させる。とはいえ、指名に入った企業同士があまりにも熾烈な競争を繰り広げてしまうと、結局、地元から土木・建設業が消滅してしまうことになりかねない。そこで、「ワークシェアリング」の一種として、仕事を分け合う。

 地元の土木・建設業は指名から排除されると、仕事がなくなってしまう。というわけで、各企業は受注した工事を「高品質」に仕上げ、各社ともに生産性向上のための投資を続け、指名の枠に残るべく努力する。これが、かつての日本の土木・建設業のシステムだった。
 わが国はこのシステムを「市場競争に反する(反しているが)」という単純かつ愚かな考え方に基づき、破壊してきた。揚げ句の果てに、震災時の仕事の割り振りまで「談合」ということで公正取引委員会が問題視する。さらに、その異常性について誰も疑念を抱かない。

 このままでは、普通にわが国は「亡国」に至る。もっとも、日本国民である筆者にとっては他人事ではないため、あえて声を大にして叫びたい。
 震災といった非常事態発生時に、速やかな道路啓開のために業者間で仕事を割り振り、調整をすることは、当たり前の話である。同時に、それを処罰しようとする考え方自体が、異常極まりないのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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