葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第142回 続・亡国の農協改革

掲載日時 2015年09月23日 14時00分 [政治] / 掲載号 2015年10月1日号

 9月8日、筆者渾身の1冊である『亡国の農協改革 日本の食料安保の解体を許すな』が、飛鳥新社から刊行になった。
 亡国の農協改革の中身については先週も取り上げたが、今回は改革推進に際した「レトリック」に焦点を当ててみたい。例えば、読者は農協改革に関連し、以下のレトリックを耳にしたり目にしたりしたことはないだろうか。
 「全農(全国農業協同組合連合会)が農薬や肥料を農協や農家に“高く売っている”。だから、農協改革が必要だ」
 筆者は、農協改革の推進派、あるいは賛同派から、繰り返しこのレトリックを聞かされた。聞き手が「何も考えていない。何も知らない」場合、レトリックがもたらす“印象”にコロリと騙され、
 「全農はけしからん。やはり、農協改革が必要だ」
 などと、まさに“愚民”として思い込まされることになるわけだ。

 全農は、確かに農産物の流通において3割前後のシェアを維持しており、さらに肥料農薬といった生産資材の市場でも5割前後を占有している。とはいえ、別に「市場を独占している」わけでも何でもない。
 そもそも、農協にせよ農家にせよ、全農から肥料や農薬を買う「義務」はない。農家や農協にとって、全農から生産資材を買うか否かは「自由」なのである。全農の販売価格が高いと感じるならば、他の業者から購入すれば済む話であるし、実際にそうされている。

 むしろ、全農が批判されるケースがあるとすれば、農産物市場や生産資材におけるシェアを活用し、ダンピング的な安売りを展開。他業者を排除しようとした場合であろう。市場シェアが大きい全農は、例えば、
 「高い市場シェアを活用し、一部の分野において原価を下回るダンピング販売を実施し、競合他社を駆逐する」
 といったビジネスモデルを採用することが可能なのだ。
 全農が競合を駆逐するために「極端に安い価格で、生産資材を販売している」ならばともかく、「高く売っている」ことで批判されるいわれはないだろう。全農の商品価格が高いならば、他の業者から購入すれば済む話だ。
 ちなみに、全農の生産資材が他の業者より高くなるケースは確かにある。何しろ、全農は農協や農家に「営農指導」というサービスを無償で提供している。さらに、全農は配合飼料等の成分について、基準値よりも余裕をもたせているのだ。結果的に、全農の商品価格が高くなるわけである。すなわち、農業全般に対するサービスを提供している全農と、単純に生産資材の販売のみを提供する一般業者とでは、業態が違うのだ。

 また、連載の第137回でも取り上げた通り、「日本の農業や農協は保護され過ぎている」というレトリックも、明確に間違いだ。ヨーロッパ諸国の農家の所得に占める直接支出(要は税金からの支払い)の割合は、軒並み90%を超えているが、日本は15.6%にすぎない。さらに、多額の輸出補助金を支出しているアメリカは農業予算が農業生産(GDP)に占める割合が65%であるのに対し、日本は27%にすぎない。
 主要国の中で、日本ほど農業を保護していない国はない。それにもかかわらずわが国では、
 「日本の農業は保護され過ぎだ!」
 というレトリックがまかり通り、革命とでもいうべき農協改革を推進する下地が醸成されていった。

 ところで、日本は世界最大の食料輸入大国である。2013年のわが国の農林水産物の輸入額は6兆1365億円と、1960年比で10倍に膨張している。農産物輸入額で見ると、アメリカ、中国、ドイツに次いで第4位となっている。とはいえ、米中独の3カ国は、輸入も多いが、輸出も少なくない。
 食料の輸入額から輸出額を差し引いた「純輸入額」で見ると652億ドル('13年)と、文句なしで世界最大なのだ。わが国は世界の中で突出した「食料輸入国」なのである。
 もっとも、別に日本の農業に関する「需要」が増えているわけではない。日本の農業のGDP(生産=需要)は、'94年は8兆円だったのが、近年は5兆円程度で横ばいだ。

 この状況で、安倍政権や農林水産省は農業の6次産業化を進めているわけだから、あきれてしまう。6次産業とは、農業生産(1次)、加工(2次)、そして流通・販売(3次)の全てを農家が担い、1+2+3で6になるという、いかにも現場を知らない学者が名付けた机上の空論的な“戦略”である。
 全体の需要が拡大していない状況で、農家や農業が農林水産省にあおられ、2次産業や3次産業に「新規参入」すると何が起きるだろうか。間違いなく、既存の需要(=所得)の奪い合いが発生することになる。すなわち、すでに農産物の加工や流通、販売の産業から所得を得ている別の日本国民から、所得を奪い取る結果になってしまうのだ。

 需要が拡大しておらず、新たな付加価値が提供される余地が乏しい以上、そうならざるを得ない。
 「だからこそ、日本の農家は世界を目指すべきだ」
 などと言われそうだが、ならばアメリカ並みの輸出補助金の制度を整えるべきだ。とはいえ、その手の話は全く聞こえてこない。
 要するに、日本国民は農業や農協の実態を知らないのだ。結果的に、わが国は食糧安全保障を脅かす農協改革を推進している。この現実を、できるだけ多くの国民に知ってほしく、筆者は『亡国の農協改革』を書いたのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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