中島史恵 2019年6月6日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第117回 不吉な指標たち

掲載日時 2015年03月20日 11時00分 [政治] / 掲載号 2015年3月26日号

 日本の「再デフレ化」に関連し、不吉な指標が続いている。
 2月27日、総務省が'15年1月の消費者物価指数を発表した。
 総合の消費者物価指数(以下、CPI)は2.4%、生鮮食品を除いた消費者物価指数(以下、コアCPI)は2.2%、食料(酒類除く)及びエネルギーを除いた消費者物価指数(以下、コアコアCPI)は2.1%、対前年比で上昇となった。もっとも、これらの数値には消費税増税分(日銀試算で2%)が含まれてしまっている。
 消費税の増税分を除くと、1月の消費者物価指数は、CPIが0.4%、コアCPIが0.2%、そしてコアコアCPIが0.1%の上昇ということになる。
 コアコアCPIが「0.1%」でなんとか踏ん張っている中、肝心のコアCPIの上昇率が縮小してきた。

 日本銀行の「インフレ目標」は、コアCPIで設定されている。今後の日本では、コアコアCPIはもちろんのこと、コアCPIもまた、ゼロを切ってくるのは確実だ。
 無論、コアCPIの上昇幅が小さくなっているのは、原油価格の下落が大きく影響している。
 とはいえ、そもそもエネルギー自給率6%の国(日本)が、外国からの輸入に大きく依存しているエネルギー(原油など)を、インフレ率の定義である消費者物価の指数に組み込み、「インフレ目標2%」などとやっている時点で、変なのだ。

 内閣官房参与の一人である浜田宏一教授は、2月23日にロイターのインタビューに答え、「(日銀が)目標水準を1%近くに引き下げたり、達成期限を現行の2年程度から3年程度に延長しても日銀への信認が損なわれることはない」とし、インフレ目標を再検討すべきと答えた。
 現在の日銀の金融政策は、「中央銀行がインフレ目標をコミットし、量的緩和を実施することで期待インフレ率を高める」という、いわゆる「期待理論」に根ざしている。
 「2年(※'15年4月まで)で2%」というインフレ目標を達成できる見込みは、もはやない。だからと言って、目標水準を勝手に引き下げてしまうのでは、もはや、「コミットメント」も何も、あったものではない。
 重要なのは日銀の信認とやらではなく、国民の所得が増えるか否かである。すなわち、実質賃金が安定的に増加する環境にならなければ、デフレ脱却とは言えない。

 3月4日、1月の実質賃金速報値が発表された。「きまって支給する給与」で見ると、対前年比でマイナス1.9%。これで'13年5月以来、何と21カ月連続で対前年比マイナスである(現金給与総額で見ると、19カ月連続のマイナス)。
 左ページのグラフ(本誌参照)を見ると、実質賃金の対前年比のマイナス幅が「縮小」している。とはいえ、実質賃金の「マイナス幅の縮小」には、消費者物価指数の上昇率が低下してきたことも影響しているのだ。
 実質賃金とは、名目賃金から物価上昇率を差し引くことで求められる値である。コアCPIの上昇幅が縮まり、実質賃金の下落が緩和されると、日銀のインフレ目標達成が次第に困難になっていくという、奇妙奇天烈な状況になっているわけである。

 実質賃金を安定的にプラス化するためには、「仕事(需要)が多い」状況を創出する必要がある。
 経営者は、仕事が十分にない環境下で、賃金を物価上昇率以上のペースで引き上げようとはしない。逆に、仕事が十分にあれば、賃金の上昇ペースは加速する。

 今後の日本で、実質賃金がプラスに転じない場合、何が起きるのか。
 もちろん、国民が「貧困化」するという話であるため、GDPの6割を占める個人消費が拡大しない。というよりも、実質的な消費が縮小し、別の誰かの「所得(賃金)」が抑制される悪循環に突入することになる。
 国民が貧困化していく状況で、消費、特に「量」で見た実質消費が増えるはずがない。

 総務省が2月27日に発表した家計調査によると、1月の実質消費(量で見た消費)は全世帯(単身世帯を除く2人以上の世帯)で、何と対前年比5.1%もの減少であった。実質消費の減少は、これで10カ月連続だ。
 実質賃金の下落は、2013年初めに始まったが、それでも2014年1〜3月期までは、実質消費はプラスになることもあった。ところが、2014年4月以降、我が国は実質消費が常に対前年比マイナスという状況が続いている。
 消費税増税が、いかに「失政」であったかが、改めて理解できる。

 消費税増税以降は、実質消費は平均すると4%程度の対前年比下落である。日本の民間最終消費支出は300兆円弱であるため、現在の状況が続くと、年間に12兆円規模の「実質的な消費需要の縮小」が発生することになる。
 実質的な消費の縮小とは、国内を市場とする中小企業にとって、「目の前の仕事が消えていく」ことを意味する。
 この状況で、企業が物価上昇率を上回る賃金の引き上げに乗り出せるはずがなく、実質賃金の下落が続き、それがさらに実質消費を引き下げる悪循環に突入することになる。

 日本の実質賃金を安定的にプラス化するためには、政府が「仕事を増やす」財政出動の拡大が不可欠だ。
 ところが、現実の日本政府は緊縮財政路線を堅持している。緊縮路線が続く以上、2015年の日本が「再デフレ化」する可能性は極めて濃厚だ。
 日本が再デフレ化した時、「なぜ、こんな事態になったのか」を、国民が正しく理解する必要がある。さもなければ、我が国は永遠にデフレと緊縮財政の悪循環から抜けられない。
 日本国は、国民が「正しく経済を知る」ことなしでは、国民経済が浮上できないという厳しい時代を迎えたのだ。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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