菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(105)

掲載日時 2016年05月16日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年5月26日号

◎快楽の1冊
『辛夷(こぶし)の花』 葉室麟 徳間書店 1700円(本体価格)

 大河ドラマや時代小説を好む女性は少なくない。例えば戦国時代を中心に据えた物語など、当然のことながら激しい戦闘シーン、斬り合いが盛り込まれるのだけれど、それを楽しむわけである。
 しかし一方、ヤクザ映画や現代を舞台にした犯罪映画を好む女性はさほどたくさんはいない。私の個人的体験をもとにして言うと、『仁義なき戦い』やロバート・デ・ニーロ主演の『タクシードライバー』が大好き、と堂々宣言する女性と言葉を交わしたことは少ないのだ。
 これはどういうことか。おそらくは安定を確保した上での暴力、戦闘が女性にはしっくり来る、ということではなかろうか。女性がすべて優しく穏やかであるとは限らない。むしろ、感情を爆発させるときは男性をたじたじさせたりもする。しかし、やはりストレートな暴力表現に対しては拒否感情が湧く。生まれながらに持っている母性が、徹底的な破滅を避けるのであろう。なので、男と女との在り方、礼儀などが一定の秩序を保っていた時代に安心しつつ、アクション・シーンを楽しむ、という傾向に向かうのではないかと思う。
 本書『辛夷の花』はまさしく、そのような安定の上での戦いを描き切った時代小説だ。舞台は九州。小竹藩の勘定奉行、澤井庄兵衛の長女である志桜里は、嫁ぎ先から離縁を一方的に通告されて実家に戻っている。隣の屋敷にやはり小竹藩で働く木暮半五郎が引っ越してきた。藩主の近習役で三十歳を過ぎたばかり、独身である。噂によれば刀の腕は確かなようだが、優しげでいて何を考えているのか分からない様子に志桜里はなぜか惹かれていく。この2人を中心に藩内での闘争が描かれる。人物たちの江戸時代ならではの丁寧な言葉遣い、たしなみと闘いが絶妙に絡み合う。品性を保ったアクションは女性にも男性にも楽しめるだろう。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 神社に祀られている神は、一体どんな姿をしているのか? もちろん目には見えない。だが、肖像画に描かれた姿や、神像として制作されたものは、後世に残っている。
 そうした図画や像は神社や博物館などに所蔵され、ほとんどが文化財クラス。一堂に会することは、まずない。
 それを、よくぞここまで集めた、と感心してしまう完全ビジュアルガイドが、『廣済堂ベストムック 日本の神様大全』(廣済堂出版/1600円+税)である。
 オールカラーなだけに、ページを開くと神々の姿が満載。日本人にはおなじみの天照大御神や須佐之男命をはじめ、出雲大社の祭神である大国主命、古代の英雄・倭建命らの絵図が、ズラリと並ぶ。しかも、神々の系譜も付いていて、ややこしい八百万の神の歴史もひと目で分かる。
 また、全国の七福神巡りの案内や、今や神となって神社に鎮座している豊臣秀吉や徳川家康といった「人神」についても言及しており、これ1冊で難解な日本の神々が十二分に理解できる仕組みになっている。
 さらに「ご利益別 神様の大図鑑」のコーナーでは、勝運、金運、商売繁盛、健康長寿、開運招福、家内安全など、ジャンル別にご利益をもたらす神を紹介。パワースポット巡りのガイドブックとして、これほど頼もしい本もないだろう。
 神の姿を図版で具体的に見ることによって、これまで遠い存在だった神社と、そこに祀られている神々が、身近な存在に感じられるようになるかもしれない。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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