紗綾 2019年8月1日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第40回 失業率低下の真実

掲載日時 2013年08月25日 15時00分 [政治] / 掲載号 2013年9月5日号

 2013年7月30日、総務省が6月の全国完全失業率を発表した。
 6月の日本の失業率は、5月に比べて0.2%低下し、3.9%となった。失業率が4%を切るのは、リーマンショック直後の'08年10月以来のことだ。
 とはいえ、6月の労働力調査を読むと、
 「雇用が増えているのは金融や情報通信など『都市型産業』であり、建設、運輸などの『地方型産業』は雇用が減っている」
 という現実が理解できる。

 アベノミクスによる株価上昇で、確かに証券会社などのコールセンター業務は雇用が拡大している。製造業では、電機や自動車産業など、円安の恩恵を受けやすい業界で求人が大幅に増えている。これ自体が悪いことだと言いたいわけでは全くない。
 とはいえ、地方経済がいまだ疲弊している中、消費税増税を強引に決定し、さらなる地方の衰退を招くことが、「日本国」として正しいのだろうか。

 あまり感傷的なことは書きたくないが、地方に講演に行くと、ほぼ100%駅前がシャッター街となっている現実を見ることになり、悲しくなる。
 「地方の人は、地元に雇用がないなら、都会に出てくればいいんだよ」
 などと、国家観がない構造改革主義者たちは主張するだろうが、このまま地方の衰退を放置し、「いざ」首都直下型地震が起きたとき、誰が東京都民を助けてくれるのだろうか。地方側は、もちろん都民のために頑張ってくれるだろうが、経済力がないとすぐに限界に突き当たる。

 はっきり書くが、国家の目的が「所得を稼ぐ」ことだけであれば、
 「日本国の全国民を大都市、特に東京に集める。地方経済は放置する」
 ことが正しい。なにしろ、東京は世界屈指の(恐らく最強)の生産性を持つ都市だ。東京圏を超える人口が集中している都市圏は、世界に存在しない。

 とはいえ、人口を東京に集めたとして、首都直下型地震が起きたら、どうなるのか。それまでの繁栄は、まさに「一瞬」で崩壊することになる。
 将来的に首都直下型地震が発生することは避けられない以上、日本国民は東京のみならず、地方を含む「日本の国土を全体的に成長させる」ことなしでは、国家として生き延びられない可能性があるのだ。

 例えば、日本海側に「第二国土軸」を構築し、太平洋ベルト地帯が首都直下型地震や南海トラフ巨大地震に見舞われるときに備えなければならない。
 札幌から山口にかけた日本海側が太平洋ベルト地帯並みに発展していれば、大震災発生時に脊梁山脈(ある地域を分断して長く連なり、主要な分水嶺となる山脈)を越え、救援を続々と南に送り込むことが可能になる。

 国家とは、そもそも国民が互いに「助け合う」ことを目的として進化してきた。
 2011年3月11日の東日本大震災のとき、真っ先に被災地に入ったのは地元の土建企業だった。彼らは資材があり、機材があり、人材があり、そして「地元」を知り抜いている。
 また、当然の話として東北地方の外からも続々と土建企業が現地に入り、特に高速道路を世界が唖然とするほどの速度で復旧させた。
 さらに、高速道路が復旧したことを受け、日本中から物資を満載したトラックが被災地に向かった。被災地ではあらゆる物資が不足していたわけだが、被災者が飢えずに済んだのは、不眠不休で車を走らせた日本全国の運輸業者のおかげだ。

 当時の土建業や運輸業の活躍は、国内マスコミで報じられることはなかった。日本国民のほとんどは、彼らの活躍を知らないだろう。彼らは決しておカネのためではなく、マスコミから賞賛を浴びたいためでもなく、単に「同じ国民」を助けるために死力を尽くしたのだ。
 彼らを突き動かした「魂」こそが、ナショナリズム(国民意識)の本質なのである。

 平時にはそうでもないのだが、東日本大震災のような「非常時」には、土建業者や運輸業者は「国民の安全保障」の一端を担うことになる。
 日本国に土建業や運輸業が存在していなかった場合、我が国の国民は、東日本大震災クラスの国難を乗り切る術がない。どれだけ「おカネ」があったとしても、土建業や運輸業が国内に維持されていなければ、日本国民は「非常事態」に対処のしようがないのだ。

 前述した通り、我が国の安全保障を担う産業でもある建設業や運輸業では、いまだに雇用が減り続けている。すなわち、日本の安全保障の一部は、現在も「弱体化」しているのだ。
 失業率という指標一つとっても、
 「実際に雇用が改善している業界は何なのか?」
 「地方における失業率は改善しているのか?」
 「わが国の安全保障を担う産業の雇用は改善しているのか?」
 などに注意を払わなければならない。

 さらに言えば、
 「雇用が改善しているのは、正規社員なのか、派遣労働者なのか?」
 も重要だ。
 例えば、自動車産業でいえば、期間工にあたる“臨時の求人”が、前年同月比で3.4倍に急増している。少なくとも、日本の誇る自動車産業が、まだ「正規社員を増やそう」というマインドになっていないのは確かである。

 こう考えると、我が国の失業率改善が、また違った形で見えてくるだろう。
 少なくとも、現在の日本の雇用環境は「失業率が下がった。はい、消費税増税」とやって構わないほどには改善していないのは確かである。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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