【本好きのリビドー】

エンタメ・2019/08/11 06:00 / 掲載号 2019年8月15日号
【本好きのリビドー】

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◎悦楽の1冊
『激しき雪―最後の国士・野村秋介』山平重樹 幻冬舎アウトロー文庫 690円(本体価格)

★晩年10年を描いた感動ノンフィクション

 赤穂浪士の吉良邸討ち入り、桜田門外の変、そして二・二六事件。選択が恣意的にすぎるとの謗りを免れぬかもしれないが、日本の歴史を揺るがせた大事件にはそろってなぜか背景に一面の雪景色がよく似合う。

 反共主義一点張りの既成右翼とは一線を画し、戦後の体制自体の欺瞞性を厳しく糾弾し続けた野村秋介。現外相の祖父にあたる河野一郎邸の焼き打ちと経団連襲撃事件の主犯として計18年の獄中生活を経たのち、新右翼の理論的支柱かつ指導者と仰がれた彼は、同時にフィリピンで武装組織に捕われ、政府も見離しかけた日本人カメラマンの救出に成功する傍ら、映画製作に手を染め、また独自の美学に貫かれた見事な俳句もものする詩と行動の人だった。「俺に是非を説くな激しき雪が好き」とは、書名の由来となった野村の代表作とも呼ぶべき絶唱だ。

 本書は野村が朝日新聞東京本社で二丁拳銃による壮絶な自決を遂げた平成5(1993)年10月20日という1日を主軸に据え、事ここに至るまでの経緯をフラッシュバックの手法で緊迫感たっぷりに描いてゆく。野村を取り巻くさまざまな人物たち―父三郎と長男の勇介、多くの門下生、いつの日か野村が監督する映画を夢見たシナリオライター、共に参院選を戦った住職、さらに大の親友だった後藤組組長・後藤忠政…それぞれの視点から多角的に語られる野村の姿には、読み進めるほどに痺れるしかない。もはや死語と化した観の〈男振〉(池波正太郎作品に同名の小説あり)だが、顧みて今、彼のような存在に対し奉られねばならない言葉だろう。

 政治家の言葉の耐えられない軽さを、徹底的に忌み嫌った野村秋介世にありせば。人の死に時、死に場所とは何なのか?
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 来年の今頃は、日本はこの話題一色に染まっているはず―そう、東京オリンピック、パラリンピック。すでにチケットの抽選が始まり、抽選販売に申し込んだものの落選者続出で紛糾しているようだが、今後、まだ二次抽選もある。

 今からでも遅くない、ということで、予習に最適な1冊を紹介。『総力取材 東京2020オリンピック・パラリンピック完全ガイド』(日本経済新聞出版社/税込842円)。新聞社の運動部記者による見どころ案内である。

 全競技の開催スケジュール、会場、さらにチケットの価格など、現在、分かっている情報を事細かに提供。もちろん各種目の注目選手と、これから始まる選考会の行方も予測しているのだ。激戦が予想される男子マラソン選考会・MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)や、メダル候補が目白押しの男女卓球、日本陸上短距離の悲願でもある100メートル決勝進出が期待されるアスリートなど、読んでいるだけでもう胸が踊ってしまう。

 また、来年の結果を占うだけではなく、過去の“レガシー”の解説も面白い。夏季五輪の歴代日本人金メダリストの紹介などは、懐かしさとともに感動もよみがえってくる。つくづく日本人はオリンピックに魅了され続けてきた国民なのだと、思わずにいられない。

 週刊実話読者のオヤジ世代が目にする自国開催の夏季五輪は、おそらく“2020TOKYO”が最後となるだろう。堪能するための予備知識の吸収に、ぜひ手に取っておきたい。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【昇天の1冊】著者インタビュー 安田理央
日本エロ本全史 太田出版 3,700円(本体価格)

★エロ本はなくなるが実話誌などに受け継がれる

――本書は1940〜2010年代に発売された代表的なエロ本が網羅されています。コレクションするきっかけは何だったのですか?
安田 もともとエロ雑誌が好きで、古本屋に通ううちに自然と集まっていました。雑誌はその時代の空気を感じられるという意味で単行本よりも面白いと思っています。中でも5年ほど前から、特にエロ本の創刊号を意識してコレクションするようになりました。エロ本の場合は、売れないとあっさり路線変更することが珍しくないので、創刊号は全然違うコンセプトで作られていたことも多く、それを知るのも楽しいんです。

――年代によってエロ本の特徴に変化はあるのでしょうか?
安田 40年代は文字が中心でしたが、50年代後半からカラーグラビアが多くなっていきます。60年代前半まではヌードモデルは欧米女性が中心だったのですが、後半から日本人モデルも増えてきましたね。70年代に入ると成人映画の人気が高まり、女優のグラビアが増えてきますが、80年代になるとそれがAV女優へと変わります。90年代にはヘア解禁があり、一気にヌードグラビアが注目されました。デザインに凝った雑誌も多く、エロ本がもっともグラフィカルになっていた時代です。しかし、2000年代に入ると、付録のDVDがメインとなっていき、エロ本は存在する意味を失ってしまいました。

――安田さんにとって、忘れられないエロ本は?
安田 高校生の時に読んだ『ボディプレス』ですね。ライターをクローズアップした誌面で、登場するエロライターたちに憧れました(笑)。自分もエロライターになろうと思ったきっかけの雑誌です。写真誌『THE tenmei』も、大股開きばかりの過激な写真ばかりで、90年代の狂騒を代表する存在だと思います。デザインやコピーが格好よかったのも印象的ですね。写真のエロさと読み物の充実のバランスという意味では『桃クリーム』が素晴らしかった。ある意味で理想のエロ本だと思いました。

――このまま行くと、エロ本は消滅してしまうのでしょうか…。
安田 残念ながら再び力を取り戻すことはないでしょう。しかし、一般誌や実話誌、またネットのアダルトニュースサイトなどに、その要素は受け継がれていると思います。エロ本はなくなるとしても、“エロ本的”なものは、なんらかの形で受け継がれていくのではないかと思います。スマホ時代に相応しいスタイルのメディアが、新たに生まれるといいなと思っています。
_(聞き手/程原ケン)

安田理央(やすだ・りお)
1967年埼玉県生まれ。ライター、アダルトメディア研究家。美学校考現学研究室(講師:赤瀬川原平)卒。主にアダルトテーマ全般を中心に執筆。特にエロとデジタルメディアとの関わりや、アダルトメディアの歴史をライフワークとしている。

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