菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第145回 アベノミクスの終わり

掲載日時 2015年10月12日 14時00分 [政治] / 掲載号 2015年10月22日号

 2015年9月24日、アベノミクスが終わった。
 安倍晋三内閣総理大臣が自民党総裁に再選されたことを受け、「誰もが活躍できる『1億総活躍社会』」という、恐ろしく抽象的というか、何となく鳩山由紀夫元首相の「友愛社会」を思い出してしまうスローガンを掲げ、「新3本の矢」により「GDP600兆円」という新たな目標に取り組むことを表明したのだ。「1億人が全て活躍する」とは、これはまたかなりサプライサイド(供給能力面)に偏った考え方である。

 新たな3本の矢は、
●第1の矢、『希望を生み出す強い経済』
●第2の矢、『夢をつむぐ子育て支援』
●第3の矢、『安心につながる社会保障』
 だそうだ。
 正直、目まいがしてしまった。数字も具体的な手法もなく、「こうなればいい」という願望を並べたにすぎず、かつての社会党や民主党の「政策」そのものだ。

 今にして思えば「旧3本の矢」は、第3の矢である成長戦略はともかく、第1の矢「金融政策」といい、第2の矢「財政政策」といい、何と具体的だったことか。
 旧3本の矢と比較するのも情けなくなる「新3本の矢」を掲げた総理は、
 「投資や人材を日本に呼び込む政策を果断に進めていきたい」
 と、発言した。相変わらずの外国頼みに、嘆かわしい思いを覚えた。

 ところで、新3本目の矢「安心につながる社会保障」については、
 「“介護離職ゼロ”を目指して、介護施設の整備や、介護人材の育成を進め、在宅介護の負担を軽減する。仕事と介護が両立できる社会づくりを、本格的にスタートさせたいと思います」
 とのことである。

 介護離職ゼロという“旗”を掲げるのは大いに結構だが、やるべきことは介護報酬と介護人材の給与引き上げ以外にはあり得ない。何しろ、「介護人材の育成」などしなくても、日本には「潜在的介護福祉従事者」が数十万人規模で存在するのだ。
 日本の介護福祉登録者は120万人規模であるのに対し、介護福祉「従事率」は60%に満たない。つまりは、50万人規模で、「介護福祉登録をしているが、従事していない」人材が存在するのだ。

 なぜ、彼ら、彼女らが介護産業で働いていないのかといえば、単に「給料が安い」ためである。介護従事者の待遇を見ると、男性の「きまって支給する給与」は、産業平均が年収362万3千円であるのに対し、福祉施設職員は同231万4千円。女性は「きまって支給する給与」の産業平均が同249万7千円に対し、福祉施設職員は同211万9千円。ホームヘルパーは、福祉施設職員と比べ、さらに給与が低い。男性で月額10万円の給料の差があるのでは、介護産業に人材が居つかないのも無理もない。
 すなわち、「介護離職者ゼロ」を実現したいならば、最低でも「介護報酬」を引き上げ、潜在的介護福祉従事者を介護産業に誘導する必要があるのだ。政府が介護分野にきちんと「お金を払う」ことで、介護サービスの供給能力が高まり、介護を理由に離職せざるを得ない人たちは激減するだろう。それにもかかわらず、安倍政権が何をやっているかといえば、介護報酬の2.27%引き下げだ。需要が拡大している介護分野で、支出を絞り込んでいるわけである。

 緊縮財政で介護従事者の給料が上がらず、離職が相次いでいる状況で、「介護人材の育成」などと言われると、
 「結局、外国移民を受け入れて、介護従事者の給料を引き上げずに供給能力不足を埋めようとしているのではないか?」
 と、わが国の将来にとって「重大な疑念」を抱かざるを得ないのだ。

 しかも、総理は2017年4月の消費税再増税について、
 「リーマンショックのようなことがない限り、予定通り実施することは今までも言っている。その考えに変わりはない」
 と、明言。
 今年度におけるわが国の再デフレ化が、現時点では「確定」したといっても構わないだろう。実際、'15年8月の消費者物価指数は、日本銀行のインフレ率の定義であるコアCPI(生鮮食品を除く総合)で▲0.1%と、ついにマイナス圏に突入した。

 ところが、総理は会見でデフレについて、
 「もはや『デフレではない』という状態まで来ました。デフレ脱却は、もう目の前です」
 と語ったのだ。インフレ率がマイナスに落ち込んでいる状況で、「もはや、デフレではない」も何もあったものではない。

 '12年の自民党総裁選挙以降、筆者が自民党や安倍総裁(当時)を支持したのは、
 「金融政策と財政政策の政策パッケージでデフレ脱却を目指す」
 と、これまでの政権とは比較にならないほど「具体的」にデフレ脱却策を明示したためだ。ポイントは「財政政策」の部分になる。デフレ脱却には、財政政策による需要創出が必須だ。
 ところが、安倍政権は'14年4月に消費税を増税し、介護報酬をはじめとする政府支出を削減するという「負の財政政策」にまい進した。直近のインフレ率がマイナスに落ち込んだのは、安倍政権の「政策のミス」によるものなのだ。

 目の前の「数字」から目をそらし、必要な政策(財政政策)にかじを切らず、言葉だけで「デフレではない」と強弁する。揚げ句の果てに、抽象的な「新3本の矢」をスローガンとして掲げる。
 繰り返すが、アベノミクスは2015年9月24日に終わった。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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