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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第90回 '94年以降、最も消費を減らした内閣

掲載日時 2014年10月28日 13時00分 [政治] / 掲載号 2014年11月6日号

 現在の日本国は、果たしていかなる「成長モデル」を志向すべきだろうか。
 簡単である。働く国民、つまりは生産者の実質賃金が増加し、国内の消費や投資が拡大し、さらに生産者の所得が拡大していく形で成長する、賃金主導型の経済成長を目指すべきなのだ。

 賃金主導型成長モデル、つまり国民大多数の所得=実質賃金が上昇し、中間層を分厚くする形で経済成長をしていくモデルこそが、現在の日本に最も求められている。
 中間層は、高所得者層に比べて消費性向が高い。消費性向が高い中間層の厚みを増してはじめて、国民経済は継続的に「内需中心」の成長を遂げることが可能となるのだ。

 実質賃金とは、名目(金額)賃金から、消費者物価指数を除する(÷)ことで求められる。
 例えば、賃金が5%ずつ増えていたとしよう。その反対側で、消費者物価が10%ずつ上昇している場合、実質的には「貧しくなっている」という話になってしまう。労働者が稼ぐ賃金による「買う力」が衰えているわけである。
 逆に、賃金の上昇率がゼロであったとしても、消費者物価指数が下落していくならば、労働者は実質的には所得が増えていることになる。すなわち、次第に「豊かになっていく」わけだ。

 デフレ期の日本は、物価の下落率以上のペースで賃金(給与所得)の減少が続いた。言わば実質賃金の低下が継続したのだ。
 翻って現代は、賃金の上昇率が、物価の上昇率に追いついていない。いずれにせよ、生産者の実質賃金が減少し、国民の貧困化が続いていることに変わりはないのだ。

 実のところ、実質賃金の下落に苦しめられているのは、何も日本だけに限らない。アメリカやイギリス、さらにはドイツやフランスまでもが、現在は生産者の実質賃金が伸び悩み、国民が次第に貧しくなっていっている。
 理由は、もちろん「グローバリズム」の蔓延だ。

 グローバリズムというドグマ(教義)において、国民の実質賃金の上昇や購買力、すなわち「買う力」は重視されない。それどころか、
 「国民の買う力が下がれば下がるほど、グローバルな国際(価格)競争力が高まって良し」
 とする発想、これこそが、グローバリズムの本質なのである。

 現在の日本は、実質賃金が下落しているが、市場を「グローバル」と捉えると、別に問題はない。それどころか、国際市場における価格競争力が高まるから「良いことだ」という話になってしまうのだ。
 無論、国民の実質賃金が下がれば、国内の需要は伸びようがない。何しろ、消費性向(所得から消費に振り向ける割合)は「1」を超えることはできない。

 実質賃金が下落し、日本国内の需要が伸び悩むと、企業経営者は、
 「ああ、やはり日本の内需はダメだ。これからはグローバルを目指さなければならない」
 と考え、グローバル市場で中国企業や韓国企業と競争することになる。

 すると、「グローバルスタンダード」の世界であるため、品質で差をつけることがなかなか難しく、結局は価格競争に突入する。
 グローバル市場で価格競争を繰り広げると、為替レートは円安であればあるほど良く、さらに人件費も下がれば下がるほど良いということになるわけだ。

 とはいえ、結果的に国民の賃金水準が抑制され、実質賃金が下がり、買う力が衰えていくと、
 「ああ、やはり日本の内需はダメだ。これからはグローバルを目指さなければならない」
 と企業経営者が判断し…という、悪循環(国民経済にとって)が延々と続くことになってしまうのである。

 最後には、
 「そもそも、人件費が高い日本国内で生産する必要があるのだろうか?」
 という話になってしまい、資本(工場など)を外国に移転していく。

 グローバリズムの最大の問題は、個人的にはモノ、サービスの国境を越えた移動(輸出入)ではなく、「資本」「ヒト」の移動が自由化される点だと考えている。
 資本が外国に移ると、日本国内から雇用が失われ、実質賃金が下がる。さらに、賃金水準の低い外国人が日本に流入してくると、ますます実質賃金は下落していく。
 実質賃金が下がれば下がるほど、企業は「内需」を見捨て、グローバル市場を目指し、結果的に国内の実質賃金が下がるという悪循環が、どこまでも続いていくわけだ。

 国民を貧しくする政策は、「経済政策」とは呼べない。経済の語源は「国民を豊かにする」という意味を持つ経世済民なのである。現在の安倍晋三政権が採るべきは、国民の実質賃金を引き上げる政策なのだ。
 ところが、現実の安倍政権は国民の実質賃金を引き下げる政策ばかりを推進している。その代表が、もちろん消費税増税である。消費税増税は「強制的な物価の引き上げ」に該当するため、国民の実質賃金は確実に下がる。
 しかも、今回は前回('97年)とは異なり、元々、実質賃金が下落を続けている状況で消費増税を断行し、国民の貧困化に拍車をかけてしまった。
 その上、更なる増税を推進しようとしているわけだから、愕然としてしまう。

 安倍政権は直ちに政策のメトリクス(物差し)を実質賃金一本に絞り、消費税再増税をはじめとする国民貧困化政策を凍結するべきだ。
 国民の「買う力」に重点を置いた経済政策を実施しない限り、安倍政権はもちろんのこと、日本国そのものの未来も暗澹としたものとならざるを得ないだろう。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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