葉加瀬マイ 2018年11月29日号

達人政治家の処世の極意 第十七回「川島正次郎」

掲載日時 2015年09月21日 14時00分 [政治] / 掲載号 2015年9月24日号

 脇役としての生き方がある。主役は息が短いが、脇役は息が長いものだ。

 人間、主役やトップの座に就くだけが能ではないとして、「脇役人生」を満喫したのがこの川島正次郎・元自民党副総裁である。
 その川島は昭和30年代から40年代にかけ、場合によっては総理・総裁のイスも夢ではなかったが、時の権力の間を巧みに泳ぎ、あえて主役に固執することなくナンバー2、補佐役といった“副”的存在に甘んじ、その上で存在感を示した大物政治家であった。「あと一歩で頂上の恍惚」を、トコトン知り抜いた男とも言えた。川島の辞書には「戦い」という文字はなく、一貫して計算、判断し、「優勝者」を見抜いてそれに味方、その後しっかりナンバー2としてのポジションを得、常に優勝者の隣にいて影響力を保ったということであった。
 その川島いわく、表記の言葉を補う形でこうも言っていた。「脇役に徹する中で大事なことは、あくまで本流の中の脇役であることだ。傍流はダメだ。本流にピッタリ寄り添っていけば、間違いなく“長生き”できる。勝ち馬は誰か、それを見分ける能力が問われる」と。

 その好例がある。安倍晋三首相の祖父にあたる岸信介政権の後、当時「保守本流」と言われた池田勇人政権が誕生した際の総選挙でである。時に、一派を率いた川島は幹事長、池田の対抗馬の1人に大野伴睦がいたが、この大野を出馬辞退に追い込み、池田が政権に就いた後、見事に副総裁のポストを射止めてみせたものであった。大野は川島の手練手管に、見事にダマされたということであった。当時の手の込んだ「川島流」のテクニックに、当時の政治部記者のこんな証言が残っている。
 「ラツ腕の声が高かった河野一郎(河野洋平元衆院議長の父)が、天を仰いで言っていた。『川島は、密かに大野陣営の名簿を池田に渡していた。これでは大野はカガミを背にして麻雀をやっているようなもんで、手の内は丸見えだった。あの男は人を5階まで案内しておいてハシゴを外す男、相当な悪党だ』と」

 また、池田の後の佐藤栄作政権でも「4選」まで支持し続け、川島のヒノキ舞台に踊り出るタイミングの取り方は“名人芸”との声の中、ここでもまたキッチリ副総裁のイスをキープしてみせたのである。同時に川島の“名言”もあった。いわく、「アタシャ、(落ち目の政権と)三途の川まで付き合いませんよ」。4選までの佐藤には、権力の余力があると読んでいたのだった。
 その川島には、なるほど多くの異名が付いていた。「陽気な寝業師」「カミソリ正次郎」「ひまわり」「トボケの川正」、果ては「ズル正」「道中師(スリ)」「小判鮫の川島」といったものまであった。

 しかし、読者にとって重要なのは川島が単にカンだけで政権の行方、すなわち優勝者を見定めていたのではなかったという点である。これには、江戸っ子らしくキレのいい言葉で川島自身が言っている。「皆、アタシのカンの良さを褒めるが、実は多くの情報、声がアタシのところに集まるからなんだ。それにアタシのこれまでの経験を合わせ、大勢が向きそうな方向を探る。これが“正体”なんだ」と。
 川島は、実は個人の情報網として「川島機関」と称するものを持っていた。政界ゆえに、情報収集にはカネが左右する部分も多い。川島は、“現ナマ主義”で知られていた。背広の左右の内ポケットにはそれぞれサイフが一つずつ入っており、決まって左側には数十万円、右側には100万円を忍ばせてあった。カネに不如意の議員が現れると左側の財布をポンと手渡し、「いるだけ持っていきなさい」。持っていった分は、右側の財布から補充しておくのである。また、取り巻きの新聞記者にも「たまには皆で一杯やってくれ」と、ボス格の記者に左側の財布を手渡すこともあった。情報が集まるゆえんである。

 そうした川島ではあったが、「一寸先は闇でござんすよ」と政界の“寸前暗黒”をよく口にしていた。ここでは「カネの威力」の限界も熟知していた。と同時に、自らがトップの器にあらずと知り、分際も分かっていた上で、「脇役」志向の人生だったという点が重要だ。だから、川島は息の長い政治家渡世を送れた。「脇役人生」の満喫は、ビジネス社会でも一考に値するのではないか。=敬称略=

■川島正次郎=長く自由民主党副総裁として、自民党のナンバー2に君臨。池田勇人内閣では1964年東京オリンピック担当大臣としてオリンピック事業整備を進め、高度経済成長の仕組みを作り上げた。

小林吉弥(こばやしきちや)
 永田町取材歴46年のベテラン政治評論家。この間、佐藤栄作内閣以降の大物議員に多数接触する一方、抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書多数。

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