鈴木ふみ奈 2018年11月1日号

引き下げ議論に冷や水 5年間法人税ゼロを居直る丸太りのトヨタ

掲載日時 2014年06月30日 11時00分 [社会] / 掲載号 2014年7月10日号

 「2009年に社長になってから国内では一度も法人税を払っていなかった。企業は税金を払って社会貢献するのが一番の使命。納税できる会社としてスタートラインに立てたことが素直にうれしい」
 発言の主は中小企業の社長ではない。世界最大の自動車メーカー、トヨタ自動車の豊田章男社長が、今年3月期の決算発表会見で漏らした言葉である。世間の人々は「まさか」と耳を疑うだろうが、それも無理はない。大スポンサーへの配慮からか、新聞やテレビはこの衝撃発言を黙殺していたのである。
 「章男社長の発言に官邸筋は『余りにもタイミングが悪い』と顔を曇らせています。経済財政諮問会議がまとめた骨太の方針の目玉は、現在の法人税の実効税率(全国平均で34.62%、東京都は35.64%)を20%台まで引き下げ、海外からの投資を呼び込むこと。これで最も恩恵を受けるのは国内の大企業です。だから財源とも絡んで『大企業優遇ではないか』と物議を醸した矢先、トヨタの社長が5年間も税金を払っていなかったと“正直”に打ち明けた。巨大メディアは黙殺したとはいえ、インターネットで話が広まってしまい、おかげで官邸筋は『余計なことを…』とぼやいていますよ」(永田町関係者)

 トヨタが法人税を支払わなかった期間は'09年3月期から'13年3月期に及ぶ。最初の'09年3月期はリーマンショックの影響を受け、屈辱的な赤字に転落した年だ。法人税は企業の利益に掛かり、赤字企業には課せられていない(トヨタ単体は'12年3月期まで赤字)。
 この仕組みに加えて追い風となったのは、'10年3月期に「海外子会社配当益不算入制度」が導入されたことだ。海外の子会社は現地で法人税を納め、残った所得を本社に配当しており、日本でさらに法人税を納めれば二重課税になる。そこで会計上は利益があっても課税対象とはならない。積極的に海外へ進出し、そこでの稼ぎを国内に配当マネーとして還流する収益構造のトヨタにとっては、極めて好都合だった。単体ベースと違い、'10年3月期に早々と連結黒字に転じたトヨタが法人税の支払いを免れた理由はここにある。
 その甲斐あって'13年3月期のトヨタは単体ベースで最終黒字を確保したが、法人税は払っていない。その秘密は「欠損金の繰越控除制度」をフル活用したことだ。これは赤字を最長9年間にわたって持ち越し、黒字額から差し引ける制度である。
 こうした“特典”の恩恵に浴した結果、トヨタは実に5年間にわたって法人税をビタ一文も払わずに済んだのである。

 この間、トヨタは総額1兆542億円の配当を実施し、連結ベースの利益剰余金も2807億円積み増した。いくら住民税と事業税を支払ったとはいえ、重税にあえぐ国民の目には「うまくやった」としか映らない。市場関係者は「まるで政府を焚きつけたような手法はスゴい」と、その政治力に舌を巻く。
 「あのエコカー減税には1兆円超の血税が注ぎ込まれた。その恩恵を最も受けたトヨタが法人税を払っていなかった事実を知れば、国民の大多数は『エコカー減税自体、政府が仕掛けた巧妙なトヨタ支援策だったのではないか』と疑うに決まっている。何せ政治力に長けた企業という意味で、今やトヨタは断トツの存在ですから」

 消費税が4月から8%に上がり、来年秋には10%に引き上げられる公算が強いが、トヨタの国内販売は消費税をソックリ価格転嫁できる上、価格転嫁ができない輸出分については「輸出戻し税」で消費税を返してもらえるため負担は生じない。むろん、販売最前線は増税の影響を受けるにせよ、廃業の危機に直面する中小企業の比ではない。
 「トヨタの法人税ゼロ問題が安倍政権にとって厄介な火ダネになりかねない」と、前出の永田町関係者は打ち明ける。欠損金の繰越控除制度の恩恵を受け、長年にわたって法人税を納めなかった企業は大手メガバンクを筆頭にゾロゾロいる。それが「知る人ぞ知る」にとどまったのは、世論の反発を恐れた当事者がダンマリを決め込んだからに他ならない。ところが日本最大の優良企業であるトヨタの御曹司がパンドラの箱を開けたことで「大企業優遇税制の抜本改革を求める声が盛り上がる。そうなれば安倍政権が進める法人税引き下げ議論が吹き飛びかねない」というのだ。

 トヨタは今年3月期で過去最高益を更新、圧倒的な存在感を見せ付けて6年ぶりに法人税を納めた。と同時に、あらゆる優遇措置を駆使し、われわれ庶民がうらやむ脱法スレスレともいえる“税金逃れ”が堂々とまかり通っていることを世間に知らしめた。
 世界一の企業は、やる事なす事スケールがデカい。

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