菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(83)

掲載日時 2015年12月05日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年12月10日号

◎快楽の1冊
『殺人犯との対話』小野一光 文藝春秋 1450円(本体価格)

 ノンフィクション・ライターが十の殺人事件を綿密に隙なく取材し、その奥底にある人間の心の深淵を浮かび上がらせた本である。『週刊文春』に連載されていたページを1冊にまとめたものだ。日々、凶悪な殺人は起こり続けているので、よほど大きく報道された事件でなければ、私たちはどんどん忘れていく。しかし本書を読んでいると、どんな人殺しも決して単純ではなく、何かしらの意味を持つものだと思わざるを得ない。意味とはすなわち殺人者の心の事情だ。なぜそう思わしめるのかと言えば、著者が明らかに彼らを主役にして書いているからである。
 タイトルから分かる通り、著者は基本的に拘置所に入っている殺人者と、直接面会して取材することを常に目指している。第一章の「大牟田連続4人殺人事件」、続く第二章「北九州監禁連続殺人事件」の取材では、それが実現できている。直接面会は殺人者の表情、ちょっとした振る舞いからその人間性を感じ取ることができるのだ。第一章の殺人者は暴力団一家の一人で、金目当てに人殺しをしているが、凶暴な言動が目立つ一方で可愛げもある。矛盾しているけれど、なるほど人間とはそういうものかもしれないな、という印象を著者に抱かせるわけだ。
 直接面会がかなわなかった場合は、親族や、子供時代を知る知人、事件に密接に関係した弁護士などに会い、殺人者の人物像を固めていく。第三章「秋田児童連続殺人事件」の畠山鈴香受刑者は、この手法で像をくっきりさせている。1冊総じて感じられるのは著者の殺人者に対する温かなまなざしである。まさに罪を憎んで人を憎まず、の姿勢を貫いているのだ。
 考えてみれば、世界中の刑務所に殺人者が収監されている。もしかしたら人殺しは異常ではなく、誰がいつなってもおかしくないと思わせる本だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 実話読者にはそれほどなじみはないだろうが、興味深いライトノベルズがあったので紹介したい。
 『極道と夜の乙女 初めては淫らな契り』(竹書房/660円+税)は、ナンバーワンのキャバ嬢と暴力団フロント企業社長の、SMプレイを中心としたセックス&ラブロマンスだ。
 しかも、このキャバ嬢がもともとは深窓の令嬢で、訳ありで夜の世界に紛れ込んだはいいものの、実は処女という設定。一方の極道の方は、獰猛な野獣。女を玩具のように扱うのはお手のものだ。手練手管の調教に、ウブな女が身も心もドップリとハマっていくという、昔ながらの男女の愛欲ストーリーにそそられる。
 誰にも心を開かず、1人きりで生きていくことを誓っていた女が、冷たさと、その裏側にある男の優しさに惹かれていく姿は、まさに男冥利に尽きる。
 また、極道のキャラがとにかく冷徹で、目力ひとつで女を自在に操る様子が◎なのだ。
 とかく草食系のヤサ男ばかりがもてはやされる昨今、男はこのようにカッコよくありたいと、思わず憧れてしまうような物語だ。
 著者の青砥あか氏は、同人誌などでの執筆活動が好評だったことから作家デビュー。『S系執事と恋レッスン』(パブリッシングリンク)で、第1回らぶドロップス恋愛小説コンテスト最優秀賞を受賞した経歴を持つ。
 その他、『ハレムの花嫁シリーズ』(新潮社)など、お嬢様女子が凌辱され、性の虜と化していく描写には定評がある。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

関連タグ:本好きリビドー

エンタメ新着記事

» もっと見る

本好きリビドー(83)

Close

マダムとおしゃべり館

▲ PAGE TOP