菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(78)

掲載日時 2015年10月30日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年11月5日号

◎快楽の1冊
『ひりつく夜の音』 小野寺史宜 新潮社 1600円(本体価格)

 40歳が不惑の年齢、という言い方は今の時代には当てはまらないのかもしれない。
 医療の発達で、人は長生きするようになった。かつては60歳くらいになったら死ぬだろうと思って生きている人が多かっただろう。だから10代の後半くらいには大人としてふるまっていたのだ。しかし、今は違う。40代でも50代でも、まだ若い、と思っている。
 本書『ひりつく夜の音』は40代半ばの男・下田保幸が主人公の小説だ。若い頃はジャズのクラリネット奏者として活躍していた。しかし、今は違う。音楽教室で教えることもあるが、基本は無職だ。ミュージシャンではなくなったのだ。だから、生活を切り詰めて、贅沢はしない。朝食は食パンにチクワをはさんで食べたりしている。
 しかし、かつて交際していた女性の息子と会うことになる。そこから彼の人生は変わる。
 息子は喧嘩騒ぎを起こし、警察に逮捕されたときに下田に連絡してほしいと言う。すでに病死している母から下田のことを聞いていて、唯一の保護者として名前を出したのだ。
 警察から電話が来て驚く下田だが、結局、その青年と一緒に住むようになる。それから…彼は精神的に復活していくのだ。青年はすでにプロのギタリストとしてデビューしていた。彼からの影響で下田も音楽を再開するのである。40代半ばで未来への展望を失っていた男が、青年との触れ合いで気持ちを奮起させる。このストーリーが素晴らしい。実際に演奏するシーンもたくさんある。まるで本当に音楽を聴いているような臨場感あふれる描写である。
 そう、私たちはもしかしたら100歳まで生きるかもしれない。しかし、40代も50代も生き抜かなければ100歳は来ないだろう。どうしたら100歳まで生きられるのか、ヒントを与えてくれる小説だ。
 (中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト・プレス/861円+税)は、オヤジ世代からすると、「余計なお世話」と言いたくなるタイトルの本である。ところが、読んでみると思わず納得できる事柄が、数多く載っている。
 以前、出会い系サイトの運営者に取材したことがあった。そのサイトには、40代の既婚男性がワンサカ登録していた。しかも、自称・福山雅治や西島秀俊に似た商社マンや企業経営者が、なんと多いことか!
 サイト運営者は言葉を濁していたが、大半のユーザーは容姿や経歴を捏造しているのである。40男はなぜ嫌われるか。本書を要約するなら、そうした見栄が嫌われる理由。女性に対する興味が強く、モテたい。「若いですね」「40代には見えません」と言われたい。
 だが、実態は「僕らは何を着ればいいのか」さえ、分かっていない。せめてネットでは自分を特別な存在とアピールしたくて、人気タレントに似ていると大ぼらを吹く。
 リアルな自分と理想の自分の狭間で悩む、それが40代の男だ。そして、その姿が女性には滑稽に映る。もっと等身大に、素直に生きられないものか。そんな提言に満ちた書籍だ。
 著者の田中俊之氏は社会学・男性学を専門とする大学教員。男の生き方の見直しを提唱する論客として、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(中経出版)など話題の書籍も多い。現代は男にとって生きづらいと感じている諸兄に、ぜひオススメしたい。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

関連タグ:本好きリビドー

エンタメ新着記事

» もっと見る

本好きリビドー(78)

Close

マダムとおしゃべり館

▲ PAGE TOP