プロレスラー世界遺産 伝説のチャンピオンから未知なる強豪まで── 「マクガイヤー兄弟」草創期の新日マットを沸かせた600㎏の超巨漢兄弟

スポーツ・2020/02/09 08:00 / 掲載号 2020年2月13日号

 新日本プロレス初期の名物レスラー、ベニーとビリーのマクガイヤー兄弟。アントニオ猪木のストロングスタイルばかりが喧伝されがちな新日だが、こうした一種のイロモノ選手が団体の人気を支え、収益の面でも大きく貢献したことを忘れてはならない。

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 新日本プロレス草創期の外国人レスラーといったとき、マクガイヤー兄弟の名を挙げるファンは多いだろう。兄のベニーと弟のビリーはともに体重300キロ前後という超巨漢で、しかも瓜二つの双子というのだからインパクトは絶大だった。

 来日前には「ダブル攻撃で相手を容赦なく圧殺する悪漢」的な紹介をされていたが、実際は2人そろってホンダのミニバイクで入場するなど、その様子はどこかユーモラスで、たちまち善玉的な人気を博すことになる。

 世にも珍しい巨漢の双子レスラーとして、テレビのバラエティー番組でも頻繁に紹介され、世界最重量の肥満双生児としてギネスブックにも認定されるなど、一般層にまでその名を知られるようになった。

 マクガイヤー兄弟が登場した際のテレビ視聴率は、同時期にNWA王者ら豪華外国人を招聘していた全日本プロレス中継を上回ったというから、いかに当時の注目度が高かったかがうかがえよう。

「あまりの巨体で巡業バスに同乗できず、ワゴン車の後部席を取っ払い、そこに2人を寝転がして“搬送”していた」「トイレに入ったら壁も便器も壊れた」「入浴する際は若手が総がかりでデッキブラシを使って体を洗った」など、やや下駄を履かせたような逸話も数多く残っている。

 試合は主に小柄で機敏なヤマハ・ブラザーズ(星野勘太郎&山本小鉄)とのタッグマッチか、若手4〜5人とのハンディキャップ戦であったが、アントニオ猪木が1人で兄弟2人と対戦するという逆ハンデ戦も1975年に実現している。
「おふざけの試合を嫌う猪木ですが、あまりの人気ぶりに仕方なくといったところで、1対2のハンデ戦となったのは、メインイベンターの猪木とマクガイヤー兄弟では格が違うとのアピールでしょう」(プロレスライター)

 とはいえ試合自体は意外なほど噛み合い、立っている相手に猪木がヘッドシザースを仕掛けるようにして飛び乗り、そこから場外に投げ飛ばされてみせるなど、しっかりと見せ場をつくっていた。

 なお試合は、ベニーが猪木を羽交い絞め、ダブルで圧殺しようとビリーが突進すると、猪木がキックで切り返す。そして、ビリーがロープに腕を絡めて動けなくなると、リング中央で倒れたベニーに、猪木がコーナーポスト最上段からのニードロップを決めて、見事フォール勝ちを収めている。試合時間は6分14秒。

「ちなみに、ハンデ戦などでまれに2人が敗れるときも、これと同様のパターンでした。仰向けに倒れると、自力で起き上がれなかったそうです」(同)

 また、2人はタッグマッチでもエプロンには立たず、リング内のコーナー付近に待機していた。狭いエプロンに立てないというサイズ的な問題もあったが、彼らにとってはロープをくぐってリングインするだけでも重労働だったのだ。

★プロレス興行を支えた異形の者

 マクガイヤー兄弟は、実のところ3分以上まともに動けなかったとの評もあり、持久戦に持ち込まれると戦闘能力は急激に低下した。ただ、そうしたことに薄々気づいていながらも、あるがままを楽しむというのが昭和プロレスファンのたしなみであった。

 シリアスな闘いだけを見たいなら、ほかにもいろいろな競技がある。マクガイヤー兄弟のような存在は見世物としてのプロレス興行を支えるもので、小人プロレスなどもそうした役割を担っていた。

「かつては日本プロレスの放送枠で、力道山の試合の代わりに小人プロレスが中継されたこともありました。そのような人々を笑いものにしてはいけないという風潮が強まったことで、すっかり衰退してしまいましたが、彼らが人並み以上に稼ぐチャンスを潰してしまったことも事実です」(同)

 異形のメインイベンターとしては、1940年代のアメリカでフレンチ・エンジェルなるレスラーが活躍していた。

 極度の末端肥大症で、言うなればアンドレ・ザ・ジャイアントの顔をそのまま普通の肉体にくっつけたような様相であったが、デトロイト版のAWA王座(世界三大王座といわれたAWAとは別物だが、ルー・テーズも王者に名を連ねる由緒あるタイトル)に就くなど、強さと人気を兼ね備えていたという。

 こうした異形の者たちによるプロレスについては、単に好みの問題としてもさまざまな意見がありそうだが、プロレスの歴史において確かに存在していたことは間違いない。

 そのことに口をつぐみ、いつか忘れてしまうことこそが、彼らに対する最大の冒瀆と言えるのではないだろうか。

マクガイヤー兄弟
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PROFILE●ベニー(兄)1946年12月7日生まれ〜2001年3月26日没、ビリー(弟)1946年12月7日生まれ〜1979年7月14日没。米国サウスカロライナ州出身。身長、体重は2人とも188㎝、300㎏前後(常に20〜30㎏変動)。得意技はボディプレス。

文・脇本深八(元スポーツ紙記者)

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