中東の“火薬庫”レバノンに逃げ込んだカルロス・ゴーン被告の誤算

社会・2020/01/21 06:30 / 掲載号 2020年1月30日号
中東の“火薬庫”レバノンに逃げ込んだカルロス・ゴーン被告の誤算

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 アメリカとイランの緊張関係は、意外なところにも影響している。

 昨年末にスパイ映画さながらの手口で日本を脱出した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(65)だ。

 ゴーン被告が逃げ込んだのは第三次世界大戦勃発の際、“火薬庫”となる中東のレバノンである。

「ゴーン一族のルーツであるレバノンは、ブラジル生まれのゴーン被告自身も幼少期を過ごした、いわばふるさと。今回の逃亡劇に、レバノン政府が関与していることも、ほぼ間違いない。同国は、1972年のテルアビブ空港乱射事件で26人を殺害した元日本赤軍の岡本公三容疑者(72)を長年、匿っていることもあり、絶対に身柄を日本に引き渡されることはないと踏んで、逃亡先に選んだ。ところが、それと前後して中東情勢が大きく動いたことは誤算だったのではないでしょうか」(国際ジャーナリスト)

 レバノンでは、イランと同じイスラム教シーア派勢力「ヒズボラ」が影響力を持っている。

「アメリカとイランの対立が再び深刻なものになれば、欧米主導の資本主義社会の象徴ともいえるゴーン被告は、誘拐や政治的な人質として格好の餌食になりかねない。汚職が蔓延し、経済危機に陥っているレバノンは、昨秋から反政府デモが活発化。まともに組閣ができないほど政情不安に陥っている。ゴーン被告は、それを逆手にとって逃亡先としたわけですが、中東情勢が悪化すれば、レバノン当局がゴーン被告の保護を続けられるかどうかも不透明になってきます」(同)

 レバノンでは切手にも描かれているゴーン被告だが、現地での人気は限定的だとされている。さらに、自動車メーカーのトップだったがゆえの「負い目」もあるという。

「一時期、中東諸国の宿敵であるイスラエルが、自動運転用の“目”となるカメラやセンサーの部門で圧倒的な優位に立っていた時期がありました。このため、世界の自動車メーカートップが、こぞって“イスラエル詣で”を行っていたのです。実際、日本の自動車部品メーカーも、同国に生産拠点を構えるなど、自動運転の未来を担う国と目されていたのです」(モータージャーナリスト)

 当然、ゴーン被告もイスラエルに出入りしていた。レバノンは、国民に対してイスラエルへの入国を法律で禁じており、ゴーン被告を「この罪に問うべきだ」との声もある。

「すでにレバノンの若者からは“内通者”と批判されています。ゴーン被告は、ブラジル、レバノン、フランスの3カ国の国籍を有しているため、当然、レバノンの法律も守る義務がある。このイスラエルへの入国が、ゴーン被告のアキレス腱になる恐れは十分にある」(全国紙特派員)

 実際、日本から国際刑事警察機構(ICPO)を通じ、取り調べを求められたレバノンの検察は、ゴーン被告の聴取を行った。

「聴取の内容は日産の事件がメインですが、レバノン国営通信は、『イスラエルに入国した罪』についても話を聞く方針だと伝えています」(同)

 ゴーン被告は一連の経済事件については一貫して無罪を主張。一方、イスラエル入国に関しては、1月8日の記者会見で「仏自動車大手ルノー幹部のフランス人として訪問した」と釈明した上で、「レバノンの人々に謝罪する」と表明した。

 緊迫する中東情勢が、自身にもたらす影響を熟知しているゴーン被告。その焦りは8日の記者会見が“腰砕け”になったことからも見て取れる。

「当初は、自身の逮捕劇に関与した『日本政府関係者の実名も出す』と意気込んでいましたが、フタを開けてみたら、クーデターの当事者として既に名前が挙がっている西川廣人前社長らへの恨み節に終始。日本政府関係者の実名も『レバノン政府を当惑させたくない』との理由で公表を差し控えました」(経済部記者)

 ゴーン被告が日産を食い物にした疑いは濃厚だが、同被告が主張するように「日産がルノーに吸収合併されること」を恐れた日本政府が主導した国策捜査による逮捕だった側面も否めない。会見では、“黒幕”として菅義偉官房長官の実名を出し、日本政府に反撃する予定だった。

「菅長官は、日産の本社(横浜市西区)がある衆院神奈川2区の選出で、両者はかねて関係が深い。最初の逮捕の際も、日産の川口均専務(当時)が首相官邸を訪ね、菅長官に報告したほど。そのあたりを突いて、『政財官が一体となった国策捜査だ』と主張していれば、国際世論もゴーン擁護に傾きかねなかった。しかし、中東情勢が再び緊迫すれば、レバノンが手のひらを返して、ゴーンを政治的な交渉材料にすることもありえる。万が一を想定して、そこまでの反撃ができなくなったのです」(政治部記者)

 まんまと日本脱出に成功したまではよかったが、ゴーン被告自身の“リバイバルプラン”には徐々に狂いが生じ始めている。

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