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プロレス解体新書 ROUND10 〈第2回IWGP決勝戦〉 不透明な決着にファンが暴徒化

掲載日時 2016年07月18日 16時00分 [スポーツ] / 掲載号 2016年7月21日号

 1984年6月14日、蔵前国技館。悪夢のKO敗戦からの雪辱を期して、第2回IWGP王座決定リーグ戦で決勝に進出したアントニオ猪木と、対するは因縁の相手ハルク・ホーガン。
 新日本プロレスはこの1年間、御難続きだった。そのモヤモヤを晴らすような猪木の快勝をファンは期待していたのだが…。

 思えば第1回IWGP決勝戦での“舌出し失神事件”以降、猪木と新日にとってはまったくロクなことがなかった。社内クーデターによる猪木の社長解任、タイガーマスクの引退宣言、UWFの設立と前田日明以下選手の大量離脱…。
 その原因のすべては、時期を前後して猪木が入れ込んできた『アントン・ハイセル事業』にあった。絶好調だった新日の稼ぎのほとんどを、猪木はそのブラジルでの事業につぎ込み、さらに自身の会社である新日から借金を重ねていた。

 サトウキビの廃液を牛の餌に変えるバイオ産業。今ならエコ事業として称賛されそうだが、アントン・ハイセルの問題は一切、実用段階に進まなかったことだ。
 また、当時のブラジルはハイパーインフレ状態にあり、砂漠に水を撒くがごとく、つぎ込んだ資金が翌日には二束三文となっていった。そんな状況に業を煮やしたタイガーが去り、不平分子のクーデターも起きた。

 もともとはUWFの設立も、猪木が新たにカネをせしめる算段からのものであり、つまり、すべては自業自得だった。だからといって不遇の状況に甘んじる猪木ではない。
 「猪木抜きの新日は考えられない」
 とのテレビ朝日の意向によって社長復帰を果たすと、リング内でも同様。第2回IWGP王座決定リーグ戦決勝は、猪木復権の狼煙を上げるべき舞台であった。

 「今日、俺が勝って、この1年の悪夢が消えるだろうか? いや消えないだろうな。だが、今日は何としても負けられない」
 試合前の控室で、猪木はそう意気込みを語っていたのだが…。予選ではアンドレ・ザ・ジャイアントやディック・マードック、マサ斎藤、長州力らを相手に全勝し、決勝進出を果たした猪木。相手はシード枠の前年覇者、ハルク・ホーガンだった。

 '82年の『ロッキー3』に出演以降、その人気は沸騰。'84年1月にWWF王座を奪取して全米侵攻のエースに抜擢され、日本でもリングインの際の掛け声『一番』のプリントされたTシャツが大ヒットしていた。
 シリーズ開幕戦の福岡大会では特別試合でいきなり猪木vsホーガンが組まれ、結果は猪木の暴走による反則負けとなるも、「この決着は(IWGP決勝の)蔵前でつけるぞ」と叫ぶ猪木の姿に、ファンの期待は否応なく高まっていった。

 そうして迎えた決勝戦。じっくりとグラウンドで攻める猪木に対し、いら立ちを隠せないホーガン。猪木ペースで試合は進むが、ホーガンの“斧爆弾”アックスボンバーをかわして共に場外へ転落すると、そのまま両者リングアウトとなる。
 観客席から湧き上がる「延長」コールを受けて協議の結果、時間無制限の延長戦に突入すると、猪木はアリキックの連発から足4の字固め。だが、ホーガンがエプロンへ逃れると、またもや両者カウントアウトとなる。
 もちろん、観客は再度の「延長」コール。再延長戦が始まると、再びホーガンの斧爆弾が炸裂。フラフラの猪木はホーガンを持ち上げるが、バランスを崩して場外転落し、ファンに「またか」の悪い予感が走る。しかし、待ち受けていたのはそんな予想をはるかに超えるバッドエンドだった。
 リングサイドに現れた長州力が、唐突に猪木へリキラリアット、返す刀でホーガンにも一撃を加える。斧爆弾との相打ちで両者ダウンするのを尻目に猪木がリングインすると、その勝利が告げられたのだ。

 いきなり訳の分からない結末を見せられた観衆が収まるはずもなく、「カネ返せ!」コールに始まって、リング内には座布団や飲食物が際限なく投げ込まれる。一部ファンは場内の椅子や大時計を破壊するなど暴徒化し、蔵前警察署から10人以上の警官が駆けつけるまでの騒ぎとなった。
 「すでに大スターとなっていたホーガンを相手に、猪木が完全勝利するのは契約上も慣習上も無理な話。大会中に先代のビンス・マクマホンが亡くなったため、『ドサクサでやっちまうか』なんて話もあったけど、それはホーガン自身が納得しなかっただろう。長州に乱入させたのは、今後、長州を売り出していこうという考えからだった」(新日関係者)

 観客おいてけぼりの乱入劇は、特に前フリもないまま団体の都合だけで決行された。それでも結果的には思惑通りに長州はトップスターとなり、良くも悪くも伝説の一戦として後々まで語られることになった。
 新日の歴史の中で汚点とされる暴動騒ぎも、今になって振り返ってみれば“大成功アングル”だったと言えるのかもしれない。

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