森咲智美 2018年11月22日号

“アマゾン切り”での逆風に一手 佐川急便親会社上場の狙いと業界余波

掲載日時 2017年12月22日 14時00分 [社会] / 掲載号 2017年12月28日号

 宅配大手の佐川急便を傘下に持つSGホールディングス(SGHD=本社・京都市)が、この年末、東証一部に上場する。売り出し価格予定は1株1620円で、総額は5187億円。今年最大の新規株式公開となった。
 このタイミングで上場を目指す背景は、どこにあるのか。シンクタンクスタッフは、こう説明する。
 「狙いの一つは、将来を見据え海外物流網の整備と拡大で採算の質をさらに上げること。もう一つは、上場による企業イメージの改善です」

 佐川急便は1957年に京都で創業。「飛脚宅配便」で知られる宅配便事業を全国で展開し、2006年に純粋持ち株会社のSGHDが設立され、佐川急便がその傘下に入った。'16年3月の連結売上高は9433億円で、陸運業界ではトップの日本通運、2位ヤマトHDのヤマト運輸に続く業界3位の位置を占め、宅配ではトップのヤマト運輸に続き業界2位だ。
 「その中にあって佐川は、今後の物流は国内だけでは生き残れないと考えている。主戦場は成長著しいアジアで、そこでどう生き延びるか。上場で調達した数千億円の資金を元手に、特に中国や東南アジアでM&Aを加速させ、物流網を拡大するつもりでしょう」(同)

 SGHDの海外進出の動きは、すでに昨年から始まっている。'16年には陸運業界4位の日立物流と協力し、中国で生産された衣料品を日本に一貫輸送するサービスを開始した。また、ベトナムでも大型物流施設を完成させ、同国の大手企業と物流分野で提携、宅配会社を買収している。
 「特に中国での作戦では、日立物流との提携により今後の佐川の戦略が透けて見える。両社は、それぞれの一定株を取得し関係を深めており、3年以内に経営統合を目指す予定だといいます」(同)

 日立物流といえば、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)では日本のトップ企業。3PLとは、荷主企業に代わって第三者的な立ち位置から効率的な物流システムの構築の提案を行い、提供する事業だ。その日立物流と佐川急便がタッグを組んだことで、'16年の売上高合計ではヤマト運輸を約2000億円程度超えている。
 「しかし、佐川の最大の狙いは、採算の質を上げること。そのために'13年には、扱う荷物が年間4億個にも達するアマゾンジャパンに対し、配送料の値上げ交渉を行った。結局、これが決裂に終わったことで、取引を止めるという大胆な作戦に出たのです」(業界関係者)
 その決断がいかに卓越していたかは、数字を見ると明らかだ。アマゾンと取引のあった'12年3月の配達売上高が7644億円。これがアマゾン切りにより'14年は7094億円と、実に550億円も減。だが、肝心の営業利益は'12年のアマゾン取引時代が253億円、'14年363億円と100億円もアップし、以後もジリジリと伸びているのだ。佐川の“量から質”作戦は大成功したとは言え、さらにアジア戦略と上場に舵を切ったというわけだ。

 では、企業イメージの改善はどうか。
 佐川急便では昨年、駐車違反したドライバーが、知人らを身代わり出頭させるという不祥事が起きた。さらにドライバーが荷物を蹴ったり、地面に叩きつけたりしている動画がインターネット上に投稿され、問題にもなっている。
 「佐川急便だけでなく、ヤマト運輸でも慢性的な人手不足とアマゾン配送をほぼ一手に引き受けたことで、サービス残業が常態化。結果、200億円近い残業代を支払うことになった。こうした動きもあり、ヤマトも宅配便の値上げやアマゾンとの取引見直しなど、積極的職場環境改善に取り組み始めている。SGHDでも、上場で企業イメージが回復し、資金集めの拡大から人材集めにつながることを期待しています」(同)

 SGHDの上場やヤマト運輸の改革で、果たして宅配業界は変わるのか。さらに今後、この厳しい環境を両社は生き延びることができるのか。
 「今後も荷物量が増え続けることが確実視されているアマゾンでは、既存宅配業者が限界になりつつあることを横目に、新興宅配業者で地域の配送に特化したデリバリープロバイダの育成に力を入れ、そちらにも業務委託をし始めている。中には、わずか4年で東証マザーズに上場する業者や、人材も配送者も増やす業者が出始めた。その末端では相当無理な価格で宅配する業者も出てきており、質を追求する大手を脅かしている状況。一方の佐川・ヤマトは集荷の予約サービスを開始して効率化を図るなど、群雄割拠時代に突入しているのです」(同)

 SGHDは上場により、期待通りにプラスの連鎖を生み出すことができるのか。これに触発されるヤマト運輸の動きとともに、業界の競争はますます熾烈となる。

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