葉加瀬マイ 2018年11月29日号

過去に何度も症状を起こしていた! 「隠れ脳梗塞」の恐怖を知る

掲載日時 2018年01月20日 08時00分 [健康] / 掲載号 2018年1月25日号

 脳血管障害のうち、脳梗塞とは脳の血管が詰まって脳組織の一部が死んでしまう状態を指すが、必ずしも脳梗塞になったからといって症状が出るわけではない。とくに小さい脳梗塞(ラクナ梗塞)では、症状がないこともあるのだ。そして、知らないうちに何度も症状のない脳梗塞を起こしていたという人も少なくない。症状のない脳梗塞、それが、「隠れ脳梗塞」と呼ばれているものだ。
 この隠れ脳梗塞は、急激な障害を引き起こす脳卒中を発症するリスクが約4倍、認知症を発症するリスクは約2倍以上とも言われている。

 都内に住む飲食店従業員の田宮武さん(仮名=61歳)は、ある日、自宅で倒れ、脳梗塞と診断された。脳のMRIを診た担当医は驚いたという。
 「MRIの結果、脳の40%ぐらいが白くなっていました。これは脳動脈がやられてしまったからです。しかも、それまでに3度の脳梗塞を起こした痕跡があり、それが4度目だったことも判明しました。過去の分は自然治癒していましたが、いずれにせよ脳梗塞の症状があれば、もっと早く来てほしかった。4時間半以内であれば、血栓を溶かすのにrt-PA(アルテプラーゼ)という薬の投与が最も効果的とされ、重い症状が出ないまま帰宅することもできたのに、残念です」(担当医)
 この過去3回こそが、隠れ脳梗塞だった。

 田宮さんは、こう言う。
 「私が最初おかしいと思ったのは、10年ぐらい前です。滑舌が悪くなってしまい、どうも上手く舌が回らない。しかし、お酒が好きで、年中二日酔いですから、そのせいだと周囲も自分も思っていたんですよ。いま振り返ると、体調がおかしいと思ったのはそれだけではなく、その数年後にもあったんです」
 それは仕事中のことだった。手渡しで受け取った料理の入った皿を落としてしまったのだ。急に力が入らなくなってしまったのである。そんなことは経験したことがなかったが、その時も忙しさに紛れ、放置してしまった。

 田宮さんは仕事が終わると毎日のように仲間と酒を飲みに出掛けた。それが生きがいだった。しかも、カラオケも好きで歌がうまかった。ところが、ここ2年くらい前から、どうも声の出が悪くなった。
 「自分で言うのもなんですが、カラオケは高得点を取るくらいの美声だったんです。松山千春が好きで、何で俺はこんなに歌が上手いんだろうなんて思うほど。しかし、滑舌が悪くなるし、物を落としたり、声が出なくなる原因不明の症状に気持ちも沈んでいきました」
 そんなある日、突如として倒れ、通院するハメになってしまったのだ。

 受診時、担当医は「最近、咳が出たり、声が掠れたりしているでしょ」と、それまでの症状をぴたりと当てたという。
 「隠れ脳梗塞は、脳血管性認知症や、パーキンソン症候群の原因となります。田宮さんの場合、高血圧、高脂血症などで動脈硬化が進んでおり、あのまま放置すれば認知症に進行する恐れがありました。残った動脈を大切にして、生活習慣の改善に努めなければいけません」(前出・担当医)
 田宮さんは愕然としたが、今となっては後悔先に立たずである。

 世田谷井上病院の井上毅一理事長は、こう説明する。
 「隠れ脳梗塞は微小な脳梗塞が起こる疾患で、高血圧が主な原因です。そのままにしておくと、重い脳梗塞へと進行してしまう可能性もある。重篤な脳梗塞を引き起こす一歩前の状態である隠れ脳梗塞の恐ろしい点は、自覚症状がないことです。また、たとえ症状があっても、普通は短時間で回復してしまい、重大な問題だと考えられていないことです。そのため、放置されることが多く、重い脳梗塞に移行する場合が多いと言われるのです」

 田宮さんの担当医は、こう注意を促す。
 「田宮さんがいま、やらなければならないことは、食生活を改善し、動脈を大切にすることです。断酒だけでなく、コレステロール、中性脂肪、塩分にも気を配らなければなりません」

 田宮さんの場合、右半分に軽いマヒが残ってしまったが、実は以前から腰部脊柱管狭窄症があり、歩行にも不自由をきたしていたという。
 「それも、隠れ脳梗塞の影響だったと考えられます。つまり、脳で受け持つ運動機能の分野が、脳梗塞でダメになったということ。あのままお酒を飲み続ければ、10年も経たずに認知症の症状が現れたでしょう」(同)
 幸い、田宮さんはMRIを見ると、記憶に関係する脳の海馬は無事だった。ただし、やはり3度起こしていた過去の脳梗塞の段階で受診していれば、さらに軽い後遺症で済んだ可能性を考えれば、後悔が残る。

 そもそも、脳梗塞の主な危険因子は、高血圧、高脂血症、糖尿病だ。
 「その他にも、喫煙者によく見られる心房細動などの不整脈なども挙げられます。高血圧、高脂血症、糖尿病予防法は、塩分を控えること。また、適正体重となるように、腹八分目にする。そして、なるべく歩くようにすること。塩分を体外に排泄し、血圧を下げる効果のあるカリウム、カルシウムなどのミネラルを含む食品を積極的に摂取することです」(専門医)

 カリウムは、野菜や果物、豆類などに多く含まれる。例えば、パセリ、アボカド、ほうれん草、納豆、山芋などだ。
 「血圧は高くてもいけないが、低すぎても脳梗塞の原因になることがあるんです。そのため、1日に何度か測定をした方がいい。野菜中心の食事にすることが基本です」(前出・井上氏)

 前出の専門医は、隠れ脳梗塞について、こう話す。
 「最近では人間ドックなどで検査をする人が増えたため、そこで発見され、大事に至らなかった人も多くいます。そのことからも、まずは健診をマメに受けることが大切ですが、隠れ脳梗塞を発見して完治した人でも、その2〜3割は、再び脳梗塞が起きるというデータもある。一度でも脳梗塞に罹った場合は、後にかなり高い確率で再び脳梗塞を引き起こすことを、肝に銘じておかなければなりません」

 前出のような症状が少しでも出たら、放置せず、まずは病院へ行こう。

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