菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(111)

掲載日時 2016年07月02日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年7月7日号

◎快楽の1冊
『代体』 山田宗樹 KADOKAWA 1700円(本体価格)

 SFというジャンルはなかなか厄介で、でも面白いものでもある。書き手側からすれば、創造する喜びを楽しめる。今にない別の空間を創り、そこでの人間関係やストーリーを展開していくのは、創造主としての王者の気持ちを味わえる。
 しかし同時に厄介なのだ。すべてを考える、という厄介だ。昔の江戸時代や明治時代をもとにすることもできない。今の事象を応用することもできない。ただひたすらに、頭の中で新しい世界を構築していくというのは、ものすごく大変なことである。ある種の狂気を持っていなければ、書き上げることはできないだろう。だから厄介で面白い、と言えるのだ。
 読み手の側について言えば、今、生きている厳しい現実を忘れさせてくれるフィクション・ジャンルとして、SFを楽しむ気持ちはあるだろう。
 すべての読者がそうだ、とは言い切れない。しかしそういう人も少なからずいる、と言い切れる。現実をきちんと見つめることができない、辛い、と思うことはある。現実の人間関係は面倒くさいな、と感じ続け、そこから逃れたくなるのである。皆、そうなのだけれど、とりわけ、現実を回避したい方はSFを好む傾向があるのではなかろうか。どうだろうか。
 ともかく、私個人はSFフィクション好きの作家や読者を尊重しているのだけれども、現実逃避の狂気と喜びもSF創作、鑑賞に含まれているのは確かではないか。
 本書『代体』の作者は2013年に『百年法』で日本推理作家協会賞を得た。このとき、SFとミステリーを合体させる作家と世間に認められたのだ。そして本書。人の意識を別の肉体に与え、生死をあやつられる時代を描いている。こんな時代が果たして来るのか、疑うけれども、空想すると楽しい。そう、空想は楽しいのだ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 森林原人さんというAV男優をご存知だろうか?
 失礼だが、知らなかった。名門中学に合格した秀才でありながら、AV男優のアルバイトを皮切りに“本職”になってしまったという変わり種だ。
 偏差値78を誇るその男が著したのが、『偏差値78のAV男優が考えるセックス幸福論』(講談社/600円+税)である。
 森林さんの体験人数は、撮影を含めると8000人にのぼるという。これだけの数の女性を相手にすると、男にとってセックスとは、性とは、単に「ヤリたい」という願望だけではなく、時に人を傷つけ、時に癒やされ、女性への愛情と性欲の狭間で気持ちが揺れ動く、本当に人間らしい行為の一つということに思い至る。
 また、AVで見せる、いわゆる“絡み”とは仕事としての性行為であり、本来のセックスとは違うこと、本当に感じたとき、女は自然と涙をこぼすなど、セックスを職業としてきた男だからこそ語れる、性の真髄に触れることができるはずだ。
 また、森原さんは、こうも言う。
 「性に興味のない人は、人そのものに興味もない」
 草食化が進み、女とセックスに興味を示さない若年層の男が増えているという。遊び相手はゲームやスマホ。機械が恋人や友人の代わりとなり、生身の“人”に関心の薄い男たちは、セックスの楽しさ、切なさに、自ら背を向けている。
 反対にオヤジ世代こそ、こうした著書を読み、今後の性生活の道標としたいものである。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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