森咲智美 2018年11月22日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第176回 事実上のゼロ成長

掲載日時 2016年05月27日 16時30分 [政治] / 掲載号 2016年6月9日号

 先ごろ、内閣府から2016年1〜3月期の国民経済計算速報値が発表された。実質GDPの成長率は、対前期比0.4%、年率換算で1.7%。もっとも、今年はうるう年であった。うるう年で2月が1日分多くなると、対前期比0.3%、年率で1.2%、GDPがかさ上げされることになる。というわけで、うるう年分を省くと対前期比0.1%、年率換算で0.5%成長といったところである。事実上の「ゼロ成長」という話だ。
 2015年度通年の成長率は、0.8%。2年度連続のマイナス成長は、何とか回避することができた(改定値で修正される可能性はあるが)。とはいえ、民間最終消費支出は'14年度の▲2.9%に続き、'15年度も▲0.3%とマイナス。消費税増税で大きな落ち込みになった'14年度“以上に”消費が小さくなってしまった。

 名目の金額で民間最終消費支出を見ると、'13年度が約295.7兆円、'14年度が約293.2兆円、'15年度が約291.7兆円と、着実に下がってきている。
 特に'15年度の民間最終消費支出が、対'14年度でマイナスになったことは衝撃的だ。'14年度に消費税増税で大きく落ち込んだ以上、'15年度に多少の「反動」はあってもよさそうなものだが、実際には「さらに落ち込む」という結果に終わったのである。
 消費税増税の悪影響は長期化するという筆者の持論が、残念ながら証明された形になってしまった。

 消費税増税推進派は、
 「消費税を増税して社会保障を安定化させれば、国民が安心しておカネを使えるようになり、消費が増える」
 などと、奇想天外なレトリックを主張していた。現実には、消費税増税により国民は「安心しておカネを使う」どころか、むしろ消費を減らしているのである。実質賃金が小さくなってしまった以上、当たり前だ。

 また、個人的に気になるのが「インフレ・デフレ」の判断の源であるデフレータの動きになる。左ページの図の通り、消費税増税で一時的に跳ね上がったGDPデフレータの上昇率がゼロに接近しつつある。しかも国内需要デフレータに絞れば▲0.5%であり、すでにマイナスに落ち込んでいる。
 直近の消費者物価指数(コアCPIで▲0.3%)や企業物価指数(▲4.2%)、そしてデフレータの動きを見る限り、わが国がデフレ脱却するどころか、デフレ化の方向に向かっているのは明らかだ。特に、企業物価指数が'09年11月以来、6年5カ月ぶりの激しいマイナスになっている。4月の企業物価指数の99.3は、日本経済が完全にデフレ化していた'09年11月と同じ水準なのである。企業物価指数に限れば、日本経済はリーマンショック後に「戻ってしまった」というのが現実なのだ。
 再デフレ化の脅威が高まり、実質的には「ほぼゼロ成長」ということで、安倍政権は少なくとも消費税増税の「延期」は決断したようだ。本稿執筆時点で、産経新聞に『安倍首相、きょう公明・山口那津男代表と党首会談 自民・谷垣禎一幹事長とも会談 消費税再増税延期へ最終調整』という記事が報じられた。

 5月26日、27日に伊勢志摩サミットが開催される。サミットの直後に、安倍総理が増税の先送りを正式に表明することになると予想する。現在は、主要先進国が「協調」して財政出動に乗り出さなければならない局面だ。
 さらに、熊本・大分地震により4〜6月期の生産にも悪影響が生じている。この状況で消費税増税の見送りや、大規模財政出動に踏み出せないならば、「政治」ではない。

 というわけで、サミット後の日本の経済政策のポイントを以下に整理しておく。

(1)消費税再増税の判断:予定通り実施か、延期か、凍結か、減税か。
 むろん、最も望ましいのは「減税」だが、現実には「延期」が濃厚である。「何年、延期されるのか」が焦点になってくる。

(2)財政出動の規模と質と期間。
 現在の日本にとって必要なのは、10兆円規模のインフラ・技術への投資を中心とした財政出動を複数年間(最低でも3年)は継続することだ。幸いなことに、現在の日本にはリニア中央新幹線や北陸新幹線、ILC(国際リニアコライダー:国際協力によって設計開発が推進されている将来加速器計画)など政府が支出しなければならない「プロジェクト」が複数、存在する。やるべきことに政府が継続的に支出することで、デフレ脱却はようやく現実のものになる。

(3)先進7カ国が、どこまで財政出動の拡大にコミットするか。
 日本、アメリカ、フランス、カナダ、イタリアの5カ国は、協調的な財政出動で合意可能だ。問題は、残る2カ国、特にドイツである。

(4)財政健全化目標の「修正」ができるのか。
 プライマリーバランス黒字化などというナンセンスな目標を捨て去り、政府の負債対GDP比率というまっとうな(相対的に)目標に変更できるのか。

 特に重要なのは実は(4)で、財務省や財政至上主義の政治家たちは、いまだに、
 「プライマリーバランスを黒字化させなければならないから、予算は増やせない」
 と、経世済民を無視した財政均衡主義の教義を貫こうとしている。結果、熊本・大分地震の復興予算すら「国債金利のマイナスで浮いたおカネ」を回すという異様な経済政策が続いている。国債発行は断固拒否、という状況だ。

 プライマリーバランス黒字化目標を破棄もしくは「事実上の破棄」にしなければ、たとえ今回、増税延期や財政出動が決まったとしても、'17年度には元に戻ってしまう。短期のプライマリーバランス目標を掲げている以上、長期的な「非・緊縮財政」は不可能なのだ。
 安倍総理が本気で日本経済をデフレから脱却させたいのであれば、プライマリーバランスなどという「デフレ化目標」の破棄を宣言するべきだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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