菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第141回 亡国の農協改革

掲載日時 2015年09月16日 14時00分 [政治] / 掲載号 2015年9月24日号

 筆者は9月8日に、飛鳥新社から『亡国の農協改革-日本の食料安保の解体を許すな』を刊行した。
 8月28日に参議院本会議で農協法改正案が成立し、約60年ぶりの農協制度の抜本改革となったわけだが、恐ろしいことに99%の日本国民は「農協改革」の中身を知らない。なぜかマスコミは農協改革について「全国農業協同組合中央会(JA全中)の一般社団法人化や地域農協への公認会計士監査の義務付け」ばかりを報じ、肝心要の構造改革については一切、触れようとしなかった。結果、日本国民はもちろんのこと、国会議員すら「農協改革」の本質を理解しないまま、法改正が行われた。

 例えば、読者は「農協改革」について、以下の事実を知っているだろうか。
●アメリカの金融業界は、農林中金やJA共済という巨大マーケットを喉から手が出るほど欲しがっている。農協改革で、将来的に農協の金融事業の市場にアメリカ金融業界が参入するための布石が打たれた。
●世界最大の穀物メジャーであるカーギル社にとって、世界で最も買収したい『競合』は、株式買収が不可能な(※株式会社ではないため)協同組合である全国農業協同組合連合会(全農)である。農協改革で、全農の株式会社化への道筋がつけられた。
●農地法及び農業委員会等に関する法律も改正され、農業に従事しない外国資本であっても、農地を所有する株式会社(農業生産法人)に49.9%まで出資可能となった。
●農地を商業地などに転用することを認可する農業委員会の委員が、地元の農業従事者からの公選制から、地方自治体の首長による『任命制』へと変えられてしまった。

 農協改革では「農協法」にばかり焦点が当てられてきたが、より将来に禍根を残しそうなのが、農地法と農業委員会法の改訂である。ほとんどの国会議員は、そもそも農協改革が「農協法」「農地法」「農業委員会法」の三つを一気に改訂する“大改革”であることを意識せず、採決に臨んだと思う。
 国民や政治家が“中身”を知らないまま、一部の人々を潤す(同時に別の国民に損をさせる)構造改革が進んでいく。郵政改革のときと全く同じパターンになった。そもそも、今回の農協改革は大本の発想がおかしい。何しろ、「利益を追求する株式会社は善。利益を追求しない株式会社は悪」という考え方になっているのだ。

 協同組合とは、バイイングパワーやセリングパワーが相対的に大きな大資本の株式会社に、「小」が対抗するために構成される事業体である。協同組合の元祖であるロッジデール先駆者協同組合は、個々の労働者に比べれば大きな存在であり、優位な取引が可能だった商店主に対抗するため、労働者の購買力を束ねるという取り組みから誕生した。
 もちろん、協同組合が善で、株式会社が悪という単純論でもない。協同組合は組合員の生活水準の向上、株式会社は利益最大化と、事業の目的が違うという話にすぎない。

 例えば、利益が出ない事業、地域からは、当然の話として株式会社は撤退するだろう。とはいえ、協同組合は簡単に撤退できないケースがある。理由は、地域住民の利便性を落とさないことに加え、わが国の農業協同組合の場合は「国民全体の食糧安全保障を維持するため」になる。
 要するに、株式会社と協同組合は目的も役割も違うのだが、それを一つの土俵に並べ、「利益最大化を追求しない農協が悪」という、異様なコンセプトに基づき、農協改革が推進されたのだ。

 農協改革の元になった昨年5月の規制改革会議のWG報告書では、「全農は協同組合だから、グローバルなビジネスを展開できない。だからこそ、株式会社化するべき」という「改革案」が提示され、ほぼその路線で進んだ。
 とはいえ、現実には全農はアメリカからの穀物輸入という「グローバルビジネス」において、さまざまな子会社を設立。カーギルやADMといった穀物メジャーと、真っ向から競合しているのだ(だからこそ、カーギルにとって全農が目障りなのである)。
 さらに、全農はアメリカで調達した穀物を、日本のみならず中国など他のアジア諸国に販売している。無論、利益を目的にしたビジネスというわけではなく、日本の畜産業に安定的に(かつ、安価に)配合飼料を供給するため、バイイングパワーを高める努力をしているのだ。

 全農は、超がつくほどグローバル市場で戦っている事業体というのが真実なのである。そもそも、協同組合が「グローバルビジネスができない」と主張している時点で変なのだ。世界には、グローバルにビジネスをしている協同組合が少なくない。
 例えば、ニュージーランドのGDPの約2.8%を稼ぎ出し、輸出総額の約25%を占める、同国最大の組織である乳牛組合フォンテラは、普通に協同組合だ。
 2000年には、デンマークとスウェーデンの最大手の組合が合併し、アルラフーズが誕生した。アルラフーズは、デンマークの乳量の9割超を集乳する同国最大の協同組合で、販売先は国内以外にも欧州各国、アメリカ、中東、アジアにまで及んでいる。欧州をはじめ、世界の主要国に63の工場を持ち、100社以上の系列子会社を展開させている。
 オランダのユトレヒトに本拠を置くラボバンク・ネダーランドは、農業組織向け金融機関になる。日本で言えば、農林中金に該当するだろうか。ラボバンクは金融ビジネスを世界的に展開しており、東京にも支店がある「グローバル金融機関」だが、協同組合だ。

 全農、フォンテラ、アルラフーズ、ラボバンク。いずれも「協同組合」でありながら、グローバルにビジネスを展開している。この手の“事実”を無視し、規制改革会議や安倍内閣は「グローバルで戦うために株式会社化」と、極めて抽象的(しかも間違っている)なロジックで農協改革を断行した。
 国家とは、このような道をたどり「亡国」に至るのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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