橋本梨菜 2019年5月9・16日合併号

勤務中でも眠気が抑えられない…周囲の誤解を招く「ナルコレプシー」の正体

掲載日時 2011年07月21日 12時00分 [健康] / 掲載号 2011年7月28日号

 都内の電気機器メーカーに勤務するAさん(25)は、入社2年目。まだ新人だが、勤務中によく居眠りをする、と上司から叱責を受けた。
 「この不景気の時代に、君は緊張感がなさ過ぎるんだ」
 Aさんにしてみれば、けっしてそんなことはない。懸命にやっているのに、気づかないうちにウツラウツラしているのだ。
 実は高校、大学時代も授業中、眠気を抑えられずに教科書に顔を伏せていたことがある。
 それだけではない。寝入りばなに、よく悪夢を見るのだ。髪を振り乱し、口から血を流した若い女性やナイフを手にした男が部屋に侵入してくる。恐怖のあまり声を出そうとするが、言葉にならない。しかも、体は金縛りにあって自由がきかないのだ。
 気がつくと、汗びっしょりになっている。

 スリープ&ストレスクリニックの植木洋一郎医師が語る。
 「勤務中、気づかないうちに居眠りをする。仮眠を取ってすっきりしても、2〜3時間するとまた眠たくなる。このように覚醒が続かないばかりか、眠りが浅く、よく悪夢を見る。これはナルコレプシーと呼ばれる、オレキシンという脳内ホルモンの異常によって起こるもので、覚醒を維持できない病気です。オレキシンが上がると起き、下がると眠くなる。そこまではわかっているのですが、それ以上のことはまだ解明できていません」

 本来は病気なのに、気づかないでいると、勤務先でトラブルを起こすことがある。Aさんの例は、他でもよくあることだ。
 「病気のことが理解されずに、怠慢だとして勤務先を解雇されたり、職を転々としている方も少なくありません」(植木医師)

 厄介なのは、それだけではない。植木先生は、こう警告する。
 「大笑いしたり、興奮したり、喜怒哀楽を出したとき、突然、脱力してしまうのです。例えば、大笑いしている途中、膝の力が抜けて転倒したり、手の力が抜けて物を落としたりする。また、頬の筋肉が緩んだり、呂律が回らなくなることもある。そのため、迂闊に笑うこともできず、素直に感情を出せない人もいますね」

 そういう態度に対して「無表情なヤツだ」と周囲から誤解を受け、社会に接するのが嫌で引きこもりになってしまうケースもあるという。
 「脳は最後に完成する部分といわれ、20歳まで成長しますが、この病気は10代〜20代前半が多い。高校、大学までは授業中、寝ていても大丈夫ですが、社会人となるとそうはいかない。社会人になって、どうも人と違うなと気づき、専門医に相談される方が多い。なかには原因がわからず、ナルコレプシーの診断に10年以上かかったケースもあります」(植木医師)

 ナルコレプシーを放置しておくと、様々なトラブルの原因ともなりかねない。サラリーマンならば、早めに治療を受ける必要がある。

 では、どんな治療があるのだろうか。植木先生は、次のように解説してくれた。
 「薬物治療しかありません。薬物は眠気に対するものと幻覚に対するものの2つあります。昼間の耐え難い眠気にはモディオダール、リタリンを処方します。モディオダールは脳の神経を活性化させ、はっきり目覚めさせる働きがあります。リタリンは中枢神経を興奮させ、精神活動を高める働きがある。一方、幻覚を見る人はレム睡眠を減らすアナフラニールを処方します。いずれも、専門医の指示に従って服用してください」

 指示通りに服用していれば、普通の日常生活は送れるそうだ。ただし、薬をやめると元に戻る。ナルコレプシーと診断された人は、職業ドライバーにはなれないので要注意だ。
 ちなみに、山陽新幹線で爆睡していた運転手はナルコレプシーではなく、睡眠時無呼吸症候群だった。

 日常生活で気をつけなければならないことも、もちろんある。
 「ナルコレプシーの患者さんは、睡眠不足の影響を受けやすい。日常生活で睡眠時間が6時間を切るときつくなるので、7時間は取って欲しい。仮眠は午後3時前に取り、30分を超えないことです。また、アルコールとの相性がよくないので、お酒は飲まないようにしてください」(植木医師)

 厄介な病気だが、薬を服用して、十分な睡眠時間を取っていれば普通の生活はできる。ナルコレプシーだといって、あまり苦にしないようにすることも大切だ。


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