森咲智美 2018年11月22日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第13回 中央銀行の独立

掲載日時 2013年02月10日 15時00分 [政治] / 掲載号 2013年2月14日号

 さて、安倍政権の景気対策の全容が明らかになった頃から、やたら「中央銀行の独立」を盾にとり、政策の妨害をしようとする政治家や官僚、エコノミストが目立ってきた。
 安倍政権の景気対策は、金融政策と財政政策、さらに成長戦略の三本の矢から成り立っている。三つの内の「金融政策」について、「中央銀行の独立性を害する!」などと、抽象的に批判を展開する論者が増えてきているのだ。
 とはいえ、中央銀行の独立とは、別に「神聖にして犯さざるべき」概念ではない。世の中には、中央銀行の独立について「人類の知恵」などと大袈裟な表現をする人が本当にいる。だが、中央銀行の独立など、単なる「インフレ抑制策」の一つに過ぎない。

 そもそも、日本国民の多くは「中央銀行の独立」という概念について勘違いしている。これは別に「日本銀行は好き勝手に動いていい」という意味ではない。本来的な意味における中央銀行の独立とは、「政府が設定したインフレ目標を、中央銀行は『独立した』手段で以て達成する」という意味なのだ。
 例えば、日本政府が2%のインフレ目標を日本銀行に「指示」した場合、日銀側はその目標を「自由な手段」で達成することができる。
 具体的には、政策金利を変動させ、国債を自らが定めた金額分、自らが決めたタイミングで買い取るなど「独立した」手段で目標達成を目指すという話なのである。
 政府が与えるインフレ目標には、もちろん「期日」がある。そして、期日までに目標を達成できない場合、中央銀行の総裁は説明責任を負う。説明が不十分な場合、中央銀行の総裁は解任される。これが、グローバルな「中央銀行独立」の定義である。

 ところが、現在の日本では、「中央銀行の独立」は異常な水準に高まってしまっている。何しろ、'98年に日銀法が改正された結果、日銀は大蔵省傘下から独立し、それまで「内閣」にあった総裁罷免権が消滅してしまったのだ。
 法律改正で内閣から総裁罷免権が消えて、どこに行ったのかといえば、この世から本当になくなってしまった。
 現在の日銀法の下では、日本銀行総裁を罷免することは誰にもできない。内閣総理大臣は国会で内閣不信任案が可決すれば、総辞職もしくは解散を強いられる。それに対し、日銀総裁の場合は、本当に罷免する手段がないのだ。日銀総裁は自身が破産するか、あるいは禁錮以上の刑に処せられるなどの極端な状況にならない限り、誰も罷免することができない(法律がそうなっている)。

 誰からも罷免されないとは、「責任を一切取らなくていい」と同意だ。結果的に、'98年以降の日本銀行は、民主主義により選ばれた政治家に逆らってすら、まともなデフレ対策を打たなくなってしまった。
 日本のデフレが深刻化したのが、まさに'98年からなのであるから、「日銀法改正とデフレ深刻化は無関係だ」などと強弁できる人はおるまい。しかも、日銀は小渕内閣や麻生内閣など、デフレ対策に本格的に乗り出そうとした政権の指示に逆らい続け、日本経済は財政政策という片翼だけでデフレ脱却を目指すことになってしまった。
 片翼だけの飛行機が、飛び立てるはずがない。日本のデフレ脱却には、金融政策と財政政策という「二つの翼」が必要なのだが、片方の翼がぽっきりと折れた状態で滑走路を走り続けざるを得なかったのである。結果的に、我が国のデフレは何と15年も継続することになった。

 さらに、前述の通り「中央銀行の独立」とは人類の知恵でも何でもなく、単なるインフレ抑制策だ。中央銀行が政治家の言いなりに通貨発行(=国債買取)を続けてしまうと、普通の国ではインフレ率上昇が止まらなくなってしまう。
 特に、政治家は有権者から選挙で選ばれているわけである。政治家が有権者の意向に沿い、際限なく国債を発行し、公共投資や社会保障にカネを使い、その「ツケ」を国債買取という形で中央銀行に押し付けると、さすがに物価が国民生活を痛めつけるペースで上昇していくことになる。
 というわけで、戦後の長い期間、「インフレ」に悩み続けた主要国において、中央銀行の独立が叫ばれ始めたのだ。

 無論、中央銀行独立とはいっても、日本のように「誰も中央銀行総裁を罷免できない」などと、極端なまでに独立性を強めた国は少ない。
 あくまで「インフレ目標は政府が決める。中央銀行は独立した手段をもってそれを達成する」という形で、中央銀行の独立が押し進められたのだ(中央銀行を国家から完全に独立させてしまったユーロ加盟国は除く)。
 それに対し、日本は「日銀総裁には誰も手が出せない」という、異様な水準にまで中央銀行の独立性を強化してしまった。

 さらに、今さらだが我が国はデフレに悩んでいるわけであり、インフレでも何でもない。
 中央銀行の独立が「インフレ抑制策」の一つであった以上、デフレ期には「独立性を弱める」という動きがあって当然だ。さもなければ、国民経済はいつまで経ってもデフレという病から回復せず、国民が貧乏になっていく。

 まさに、日本以上に「中央銀行の独立」を強めてしまったユーロ圏が、バブル崩壊後のデフレ化の危機に手も足も出ず、国民が貧乏になっていっている(特に南欧諸国)。
 ユーロ加盟各国の金融政策の機能は、ECB(欧州中央銀行)に委譲されてしまっているのだ。各国の中央銀行(一応、存在している)は、自国政府の指示を「聞いてはならない」と定められているわけだから、徹底している。しかも、ユーロ加盟国が金融政策の機能を取り戻すには、ユーロ離脱以外に方法がない。そして、ユーロ離脱はそもそも想定されておらず、いかなる手続き、技術をもって達成すればいいのか、誰にもわからない。

 共通通貨という呪縛で動きが取れないユーロ加盟国に対し、日本の場合は法律を改正すれば話が終わる。デフレに悩む現在は、日銀法を「中央銀行の独立性を弱める」形で再改正するべきなのである。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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