片山萌美 2019年7月4日号

〈男と女の性犯罪実録調書〉③遺体を手放す気はなかった

掲載日時 2019年06月06日 00時00分 [官能] / 掲載号 2019年6月13日号

 そんな江利佳さんが遺書を書き、「もう生きていたくない。死にたい」と言い出したため、その願いを叶えるために殺したというのが、藤本の言い分だった。

 「オレも江利佳も普通の社会から弾き飛ばされた人間やった。分かってもらえなくてもしょうがないと思うけど、江利佳の願いを叶えるのがオレの役目。それがオレの位置付けだし、オレが生まれてきた意味だ」

 藤本は「後悔はしていないのか?」という問いに対し、「まだ自分の中では答えは出ていない。江利佳がしんどがっていて、これ以上は受け止められへんのやなというのは分かった。もし、自分が間違っていたのなら、江利佳に申し訳ないと思う」などと述べた。

 もちろん、そうなったからには藤本も生きているつもりはない。最愛の女性がいなくなったこの世に未練もない。でも、死にきれなかった。だから、江利佳さんの遺体を手放すことなど「考えもしなかった」と言うのだ。

 それから5年後、藤本は美幸と結婚した。美幸もまた、藤本を無条件で愛した女性の1人だった。藤本の世界観としては「オレにはおかん、江利佳、美幸しかいない。おかんも江利佳も美幸も好きだから動いてるだけ。3人が泣いている顔は見たくない。守りたい人が泣いているのがイヤだから動く。3人の笑顔が見たい。ただ、それだけだ」というのが行動基準なのだ。

 検察側は公判で「江利佳さんは今後も生活していくことが前提の行動を取っていて、仮に殺人の依頼があったとしても、本心ではなかった」として、藤本に懲役15年を求刑した。

 だが、裁判所は「被告はこれまで被害者から『死にたい』と言われたことはないと言っており、目の前で遺書を作成するなど、『殺してほしい』と言われたのを本心だと誤信した可能性がある」として嘱託殺人罪を適用し、懲役5年6月を言い渡した。

 社会病理学の専門用語では、矛盾する2つの命令を出すことで、精神的なストレスがかかることを「ダブルバインド」という。

 藤本の場合、江利佳さんに「死にたい」と言われ、「何とかしてあげたい」という気持ちと「楽にしてあげたい」という気持ちが同時に持ち上がり、「楽にさせてあげることが自分にできることだ」という倒錯した愛情表現が優先して持ち上がった結果、今回の事件につながったらしい。

 社会を震撼させた怪事件は、こうして幕を閉じた。
(文中の登場人物はすべて仮名です)

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