葉加瀬マイ 2018年11月29日号

話題の1冊 著者インタビュー 安田浩一 『ネット私刑(リンチ)』 扶桑社 760円(本体価格)

掲載日時 2015年09月26日 19時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年10月1日号

 −−そもそも「ネット私刑」とは何なのでしょう?

 安田 今年2月の川崎中1殺害事件では、警察の捜査や報道機関の取材とは別に、もう一つの“犯人捜し”が大々的に行われました。事件発生2日後には、主犯格とされる容疑者の実名や写真、住所や電話番号、そして家族の実名までがネットにさらされ、〈絶対に許すな!〉〈みんなで復讐しよう〉という“正義”の名のもと、一気に拡散しました。裏取りや検証もなく、疑わしいと思われる者の個人情報が片っ端からネットにアップされたのです。私的制裁を加えるために、集団で特定個人の情報を公開し、罵詈雑言を浴びせ、おとしめる…まさに「ネット私刑」が執行されたのです。

 −−ネトウヨや外国人労働者の問題をテーマにしてきた安田さんが、本書を執筆したきっかけは?

 安田 直接のきっかけは、川崎中1殺害事件。この事件の前段は、陰惨ないじめ。容疑者による物理的な暴力です。そして後段では一転して、容疑者はネットによる壮絶ないじめを受ける側に回り、さらには無関係の者までが犯人扱いされ、誹謗中傷の標的となる“誤爆”まで起きた。多数派が集団で少数派を傷つける…外国人労働者の問題やヘイトスピーチと同じ構造が、ネットにもあったのです。

 −−ネット私刑は、比較的新しい問題に見えます。

 安田 ネット私刑に初めて注目したのは、'11年の大津中2いじめ自殺事件です。この事件では、加害生徒だけでなく、いじめを隠蔽しようとする学校や行政関係者も、ネット私刑の標的となった。私刑を扇動する側は、「いじめはよくない!」と“正義”を振りかざすが、同時にネットでは集団で無関係の人を傷つける…つまり、ネットの住民たちもいじめに加担しているわけです。ネットの“祭り”と同様に、一種の高揚感を得るために多くの人々が私刑に加わる。当然ですが、そこに正義などありません。

 −−本書では、川崎中1事件で容疑者宅前からネット生中継を行い、のちに“ドローン少年”として物議を醸した「ノエル」の母親の直撃にも成功しています。

 安田 彼は“報道”のつもりなのでしょうが、彼自身がネット私刑を煽るための装置として機能したのも事実。この構造の中では、私刑を執行する側がいくら「正義」を口にしても、結局は不特定多数の憎悪を掻き立てる方向に収斂していく…。そして、憎悪の連鎖は現実世界にもフィードバックする。ところが、私たちはネット私刑への対応策を持っていないのが現状なのです。

(聞き手:齊藤武宏)

安田浩一(やすだ こういち)
1964年、静岡県生まれ。新聞社、出版社の記者を経て、2001年よりフリージャーナリストとして活動。主な著作に『ルポ 外国人「隷属」労働者』(光文社)、『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』(講談社)、『ヘイトスピーチ「愛国者」たちの憎悪と暴力』(文藝春秋)がある。

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