菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(92)

掲載日時 2016年02月13日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年2月18日号

◎快楽の1冊
『踊り子と将棋指し』 坂上琴 講談社 1300円(本体価格)

 小説現代長編新人賞の開始は2006年なので、比較的新しめの賞と言っていいだろう。しかし、さかのぼると歴史を背負ってもいることが分かる。講談社から中間小説専門の月刊誌『小説現代』が創刊されたのは1963年。同年に小説現代新人賞が創設された。近年はあまり使われなくなっているけれど、かつては純文学と大衆娯楽小説、双方の要素が混在した小説を中間小説と呼ぶことが、かなり一般化していた。そういう類いの中短編を公募する賞として、小説現代新人賞は続いてきたのである。それが'06年にリニューアルされ、長編の賞に生まれ変わった。
 さて、本書『踊り子と将棋指し』は同賞の第10回をゲットした作品だ。ひとことで言ってしまえば、アルコール依存症が進行して過去の記憶がだいぶ失われている男と、ストリッパーとの純愛物語である。ただそうは言っても、なかなか複雑なつくりになっていて、ほのぼのとしたユーモアが魅力の一つになっているものの、シリアス度も高い。
 それもそのはず、作者自身がかつてアルコール依存に苦しんでいたことがあるのだ。新聞社に勤めていた頃、すでに深刻化し、断酒治療を始めた。そして'14年に退社し、作家デビューを果たしたのだ。自らの体験を活かしているのだから真に迫っていて当然なのだ。
 主役の男は新聞記者というわけではなく、つまり私小説ではないのだけれど、依存症描写が詳細で怖いほどだ。大量飲酒は食欲減退をもたらし、栄養失調による死が待っている。それが分かっていながら酒をやめられない。そんな男と偶然出会ったストリッパーが世話を焼き、復活のきっかけをつくってくれる。彼女は暗い過去を持っている。問題を抱えて生きてきた2人が寄り添い合う。何とも泣けてくる。際どいストリップ・シーンが、逆に純愛の美を称えることになる小説だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 偉人が残した名言1000を、1冊にまとめあげるという労作が発売された。『人生を決断する!武将〈サムライ〉の言葉1000』(西東社/750円+税)だ。
 平安時代の武士政権黎明期から、戦国・幕末に至るまで、歴史上の主だった武士が実際に口にした言葉が、ほぼ網羅されている。いずれも戦乱や権力闘争、改革などの修羅場をかいくぐってきた人物の言葉だけに、重みと含蓄に満ちている。
 「生きんと戦えば必ず死するものなり」は、毘沙門天の化身と称された戦国武将・上杉謙信の言葉だ。戦いとは、己を捨てるものという信条が、ここにある。
 「人間一生、好きなことをして暮らすべきである」は、武士道を説いた名著『葉隠』を後世に伝えた、江戸時代の佐賀藩士・山本常朝の言。当時の武士たちが、決して頭デッカチの堅物ばかりだったわけではなく、前向きに生きることを楽しんでいたこともうかがわせ、勇気をもらえるだろう。
 どのように暮らし、どのように生涯を終えるか、いま以上に“生の価値観”が求められていた時代、武士たちが指針としたものは、果たして何だったのか−−人生の“終活”がブームとなりつつある昨今こそ、いにしえの名言に学ぶ機会が、いっそう増えてくるだろう。
 著者は歴史探偵家の高橋伸幸氏。ツイッターで『武将の名言』を1000回以上更新中のほか、『戦国武将と念持仏』(KADOKAWA)といった著書も持ち、シニア層向けの歴史書執筆者として活躍中だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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