〈男と女の性犯罪実録調書〉②自分を認めた初めての女性

官能・2019/06/05 00:00 / 掲載号 2019年6月13日号

 一方、藤本は殺人罪で起訴され、3カ月の鑑定留置が決定。刑事責任能力については「問題ない」とされたが、事件に至るまでの経緯については驚くべき背景が明らかになった。

 藤本は父親に虐待されて育ち、小4からは特にひどくなり、素手で殴る、蹴るはもちろん、孫の手で殴られたり、木製イスで殴られたり、根性焼きをされたり、関節を外されたり、骨折させられたこともあった。

 父親は子供だけでなく、母親に対しても暴力を振るった。面前DVは子供の脳の発達を阻害し、神経経路の形成に影響を与え、学習能力にも大きな影響を与えるといわれている。藤本も例に漏れず、学業不振で、高校には進学したものの、2年で中退してしまった。

 そんなときに出会ったのが江利佳さんだった。藤本は17歳のとき、素行不良から中等少年院に入った。それでも彼女は藤本のことを見捨てなかった。

 「あなたが邪魔だなんてとんでもない。そばにいてくれるだけで私、嬉しいよ。何もしてくれんでも、ここにいて、しゃべってくれるだけで嬉しいよ」

 江利佳さんは母親以外で初めて自分を認めてくれた存在だった。やがて「江利佳の笑顔を見るためなら、自分はどうなってもいい」という忘我のような愛情感覚を持つようになった。江利佳さんも親に虐待された経験があり、お互いの存在が欠かせない共依存のような関係になっていった。

 事実、藤本の愛情のかけ方は極端なものがあり、江利佳さんに好きな男ができると、それを嫉妬するどころか、悩みを聞いてやったり、デートプランを考えてやったりした。その男とのセックスの一部始終を聞いて、アドバイスしたこともあった。それこそが自分にできる親密さの愛情表現であり、どんな壁でも乗り越えられるという“試練”を自分に課しているようなところがあった。

 藤本は江利佳さんの中に母親を見ていた。母親を暴力から救えなかったという悔いが、極端な守護役割として再現された。母親と似た人をわざわざ選び、その人が抱える問題を解決しようとする。もちろん、藤本はそんな自分の心のメカニズムには気付いていない。

 江利佳さんから「今日はしんどいから、会社を休んで」と言われれば、それを優先した。江利佳さんが交際相手とトラブルになり、別れ話に発展したときは、相手をボコボコに殴った。
(明日に続く)

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