岸明日香 2018年12月20日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第82回 日経平均至上主義政権

掲載日時 2014年07月02日 15時00分 [政治] / 掲載号 2014年7月10日号

 最近の安倍晋三政権のメトリクス(評価尺度)は、「日経平均」である。
 何しろ、安倍政権の「新・成長戦略」には、企業の利益を「制度的」に増やし、外国人投資家の投資(証券投資)を呼び込み、日経平均の押上げが見込める政策ばかりが並んでいる。

 順を追って、説明しよう。
 まず、誤解して欲しくないのだが、日本企業の「株主」の過半が外国人投資家である、などという話ではない。我が国の株式保有において、バブル崩壊後に外国人投資家(外国法人等)の割合は急激に伸びた。結果的に、外国人投資家の声が日本で高まっているのは事実なのだが、それにしても保有割合は30%未満にとどまっている。
 問題は「保有」ではなく、外国人投資家が「株式の売買」に占める割合が高すぎることなのだ。

 ヘッジファンド(代替投資の一つ)、年金基金、投資信託、オイルマネー、さらには中国の政府ファンドなど、巨額資金を動かす外国人投資家による、日本の株式市場での売買のシェアは、実に60%を超える。
 その結果、我が国の日経平均は長期保有目的の日本国民の株主ではなく、短期で売買を繰り返す外国人投資家の影響を大きく受ける構造になってしまった。
 2013年、外国人投資家は日本株を15兆円も買い越した。そのため、日経平均は年間で57%もの上昇を見せる(何と、41年ぶりの上昇率である)。逆に、2014年は今のところ1兆円超の売り越しが続き、現時点で日経平均が昨年の水準を上回れない主因になっている。

 さて、外国人投資家は、日本の証券市場において「何」に注目し、株式の売買をしているのだろうか。
 企業のファンダメンタル? 企業の成長性? そんなものを見ている外国人投資家など、少数派である。外国人投資家の多くは日本円の「為替レート」の変動を睨みつつ、日本株式の売買を行っている。具体的に書くと、
 「円安になると、外貨でものを考える外国人投資家にとって日本株がお買得になるため、買い増す」
 「円高になれば、日本株が外貨的に売り得になるため、売却する」
 これだけなのである。日経平均が日本円の為替レートに連動する、つまりは「円高になれば下がり、円安になれば上がる」傾向が強いのは、日本の証券市場の「主役」が外国人投資家であるためなのだ。

 もちろん、外国人投資家は日本円の為替レート“のみ”により売買行動を決定しているわけではない。
 外国人投資家はROE、すなわち資本が効率的に使われているかを意味する自己資本利益率も重視する。ROEが高い割に、配当金が少ない場合などには、彼らは物言う株主として増配を求めてくる。
 要するに、外国人投資家の「目的」は日本経済の成長でも、日本国民の所得拡大でもなく、株式のキャピタルゲイン(値上がり益)とインカムゲイン(配当金)なのだ。
 自分たち株主の「得」になるならば、投資をする。あるいは、自社株買いや配当金増額などにより、株主の得になる行動を経営者に取らせる。グローバル株主資本主義の目的は、個々の株主の利益のみだ。

 現在の安倍政権の問題は「日経平均の上昇」に、政治力の源泉があまりにも依存した政権になってしまっていることになる。日経平均が暴落するような事態になれば、安倍政権の求心力は急速に失われ、安倍総理が目指す長期政権は夢のまた夢に終わるだろう。
 というわけで、安倍政権は日経平均を上昇させる可能性がある施策を、「成長戦略」という弁当箱の中に詰め込んだのだ。

 より露骨に書いてしまうと、外国人投資家に媚び、彼らの日本株への投資意欲を拡大させる“かも知れない”施策である。
 典型が、法人税減税だ。法人税を無条件で減税しても、現在の日本国において企業が余剰資金を「国内の設備投資」や「雇用」に投じるとは限らない。
 本来、国民の損に基づく法人税減税の目的は、「企業の国内投資や国民の雇用を増やすこと」であるはずだ。そうであるならば、設備投資減税や雇用減税にするべきなのだが、安倍政権は法人税の実効税率の引き下げ、すなわち「無条件の法人税減税」にこだわった。
 理由はもちろん、法人税の実効税率を切り下げると、株主への配当金の原資となる企業の純利益が増えるためだ。すなわち、黒字企業は経営努力なしでROEを高め、株主への配当金を増額させることが可能になるわけだ。その結果、外国人投資家が日本株を買い増し、日経平均が上昇する“かも知れない”。

 あるいは、人材派遣大手パソナ・グループの取締役会長である、竹中平蔵氏らが主導している各種の労働規制の緩和である。企業の残業代支払義務をなくす労働時間規制の緩和(いわゆるホワイトカラーエグゼンプション)、派遣労働の期間延長、配偶者控除の廃止や外国人家政婦の規制緩和など、安倍政権が推進する労働政策は「全て」労働市場における競争を激化させ、国民の賃金を切り下げる施策になる。
 労働規制の緩和で人件費が下がれば、当然、企業の純利益は増える。結果的に、配当金が増えることを期待した外国人投資家が日本株への投資を増やす“かも知れない”。

 極めつけは、世界最大のファンドである年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式運用比率の引き上げだ。
 130兆円という巨額資金を運用するGPIFが株式比率を高めれば、もちろん日経平均は上昇する、と外国人投資家に確信させれば、彼らが日本株を買い越してくれる“かも知れない”。

 というわけで、デフレから脱却し、国民の所得を増やすと謳い、政権を握った第二次安倍政権が、いつの間にか日経平均至上主義に陥ってしまった。
 近々、国政選挙が実施される可能性は低いため、日本国民は「日経平均ではなく、国民の所得(実質賃金)を上昇させる政策を打て」と自ら声を出し、政治に働きかける必要があると考える。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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