菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(114)

掲載日時 2016年07月23日 17時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年7月28日号

◎快楽の1冊
『恥さらし』 稲葉圭昭 講談社 630円(本体価格)

 6月後半に公開され、現在上映中の映画『日本で一番悪い奴ら』は間違いなく傑作である。白石和彌監督は2013年公開の『凶悪』で高い評価を受けた。作品自体がさまざまな映画賞を受賞したのに加え、主要キャストであるリリー・フランキー、ピエール瀧も一気に知名度を上げたのである。原作は『凶悪-ある死刑囚の告発』(新潮45編集部編)だ。実際の事件について詳細に描いたノンフィクションだった。
 そして『日本で一番悪い奴ら』も原作がノンフィクションの本書なのである。どうやら白石監督は小説ではなく、実際の事件を映像化する才能に長けているようだ。オリジナル脚本を映像化するほうが本道である、という考え方があって、確かに人気漫画を安易に実写化した作品が不評を買うことは珍しくない。しかし一方で、原作を監督がしっかり読み込み、見事な映像にしている例もあるのだ。
 本書は'02年に覚せい剤取締法違反で逮捕され、'11年まで服役していた元刑事の手記である。'53年に北海道で生まれ、大学卒業後、本格的に警察の道に入った人だ。彼は明らかに悪徳刑事である。出世するために犯罪情報を教えてくれるスパイ=Sを得ようと躍起になる。Sは暴力団員だったり、その周辺にいる不良性の強い人間であったりした。拳銃摘発を主に担当する部署に所属した著者は、どうしてもそういう裏社会の人間と仲よくしなければいけなかったのだ。
 ミイラ取りがミイラになる、というのはあまりに有名な警句だ。著者も最初はSと仲よくなるために、自分もヤクザ的な振る舞いをしていたのだが、そのうち、本当に暴力的、破滅的になり、自らドラッグも打つようになるのである。ある種、悲しいノンフィクションとも言える。警察組織に殉じるあまり刑に服すことになった。単に悪人の書とは言えない純粋さが感じられる。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 テレビバラエティー『秘密のケンミンSHOW』(読売テレビ)は、2007年から放送され続けている人気番組。47都道府県の知られざるご当地グルメや風習は、狭い日本でもこれだけ県民性や文化が違うのかと、驚くことも少なくない。
 そんな食文化や県民性を、居酒屋を舞台に解説、紹介した書籍が、『日本の居酒屋 その県民性』(朝日新聞出版/821円・税込)だ。
 著者は居酒屋探訪家として知られる太田和彦氏。旅番組としてオンエアされた『太田和彦の日本百名居酒屋』で有名になり、関連本の刊行も数多い。
 居酒屋とは大衆がくつろぐ場所。それだけに現地特有の食材だけでなく、酒の飲み方や隣り合った客との交流に至るまで、土地の風土や文化が如実に現れる。
 静かに淡々と酒を口にする東北地方。特に岩手県民は、鍋を前にすると、床に根付いたように動かず、だらだらと飲み続ける。東京は、粋を決め込み、会話にもやたらとウンチクを絡めて飲みたがる。
 また、常連客の女性がどこか艶っぽい加賀百万石の国・石川、女であろうと昼から飲みまくる酒豪大国・高知など、まことに地方色が豊か。もちろん地の食材を活かした郷土料理も記されていて、読んでいるだけでヨダレが垂れてきそうだ。
 旅に出たときは、旅館の会席料理などはやめて、ブラリと地元の居酒屋に立ち寄った方がリーズナブルだ。しかも、地元民との交流もはかれ、旅の醍醐味を味わえるかもしれない。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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