菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(89)

掲載日時 2016年01月23日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年1月28日号

◎快楽の1冊
『大都会PARTIISUPER BOOK』 石原プロモーション 青志社 2400円(本体価格)

 石原プロモーション制作、渡哲也主演のテレビドラマと言えば、最も有名なのが『西部警察』シリーズだろう。'79年から'84年までテレビ朝日系で放映された。渡演じる大門部長刑事率いる刑事たちが、ド派手な銃撃戦を繰り広げ、それが爆発炎上にまでつながる。映画的スケールをお茶の間のテレビに持ち込んだ功績は大きい。しかし、視聴率獲得という目標を最優先するあまり、内容がどんどん幼稚な方向へ進んでしまったことは否めない。人間の内面描写より、とにかくアクションを前面に打ち出すヒーローものになってしまったわけである。
 そういう点で言うと、むしろ『大都会』シリーズのほうが密度の濃い内容だ。こちらは日本テレビ系で'76年から'79年まで続いた。『西部警察』の前身と言える。全部で3シーズンが作られたのだけれど、各々は独立した設定を持っており、名前は同じでも違う人物が登場したりする。
 このうちのPARTIIを総特集したのが本書である。大きくフューチャーされたスチール写真の数々と文章で構成されている。
 PARTIIの最大の魅力は、まさしく人間の内面描写とアクションとの絶妙なバランス関係だ。渡演じる大門ならぬ黒岩部長刑事の人物像には、それまでの彼の俳優史と、胸膜炎、肝機能不全といった病気にさいなまれた壮絶で孤独な日々が凝縮されていた。黒岩は明朗とは対極の人生観を持っており、自分も含めてすべての人間が孤独を抱えていることを知っている。
 しかし、安易に凶悪犯に同情することはない。むしろ冷徹に捜査を進めることで、あらゆる人の寂しさを救いへと導こうとする。結果、孤独なハードアクション・ドラマが生まれた。
 本書を読むと、あらためて渡哲也が稀有な魅力を持つ俳優だと分かる。ドラマのエンディング・テーマ『ひとり』を聴きたくなった。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 「たられば」「○○だったら」「○○であれば」というセリフは、ないものねだりであり、人生において使ってはいけない…と、分かってはいるが、つい口にしてしまう。実は婚期を逃しそうなアラサー女性の常套句でもあるらしい。今より痩せたら、キレイになれれば、男がデキて結婚できるというわけだ。
 身近にいる男は恋愛対象外で、食指も動かない。もし心から好きになる人が現れたら…きっと幸せになれると考えるのも「たられば」の典型例。考えてみたら何の根拠もない“盲信”に過ぎないのだが、本気でそう信じている自称・女子の“痛い恋”と婚活を描いた漫画が、『東京タラレバ娘』(講談社/429円+税)である。コミック誌『Kiss』(同社)に好評連載中の東村アキコさんの漫画を単行本化し、昨年暮れに第4巻が発売された。
 主人公は、独身の女性脚本家・倫子(33歳)と、その友人2人。居酒屋に集まって酒を酌み交わしては、たられば妄想話に花を咲かせる。
 そんな彼女たちに「おたくらは、もう“女の子”じゃない」「タラレバをツマミに酒でも飲んでろ」と、毒舌を言い放つ男たち。坂上忍ばりに本音で語るこの男が、彼女たちに対する世間一般の評価を代弁している。
 だが、こうした現実をなかなか受け入れることができない女性が、ゴマンといるのが現代社会。そのせいか、晩婚化時代を生きる女性たちの孤独や悲哀に、ちょっとだけ触れることができるだろう。男が読んでもめっぽう面白い漫画だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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