菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第140回 世界同時株安

掲載日時 2015年09月07日 10時00分 [政治] / 掲載号 2015年9月17日号

 2015年8月24日。世界同時株安発生。日経平均▲4.60%、上海総合株価指数▲8.49%、NYダウ▲3.57%。
 翌8月25日。日経平均▲3.96%、上海総合株価指数▲7.64%、NYダウ▲1.29%。
 上海総合株価指数はもちろん、日経平均やNYダウまでもが1日に1000円、1000ドルという単位で価格が変動するようになってしまった。ボラタリティ(変動幅)の拡大は、バブル崩壊期に頻繁に見られる現象だ。

 上海総合株価指数は節目の3000ポイントを割り込み、中国人民銀行は同じく8月25日に緊急利下げ政策を発表した。もっとも貸出金利や預金準備率引き下げは「実体経済」の話であり、現在の異常な中国株式市場の価格下支えに役立つかどうかは不明だ。
 何しろ現在の中国株式市場は、中国証券監督管理委員会が持ち株5%以上の株主を対象に、今後6カ月間の株式売却を禁止する措置を発表(7月8日)するなど、共産党の統制下にある。もはや、株式“市場”でも何でもないのだ。

 そもそも、世界の貿易総量が減少に転じ、各国が需要不足に陥っているというのに、株価だけが上昇していった過去数カ月の状況そのものが異常だったのである。結局、各国の中央銀行が利下げ、預金準備率引き下げ、そして量的緩和と、金融政策を拡大しているにもかかわらず、政府が財政出動という「需要創出策」に乗り出そうとしなかった影響が一気に出始めたという話だ。
 生産者がモノやサービスという付加価値を「生産」し、顧客(家計、企業、政府、外国など)が消費・投資として「支出(購入)」することで「所得」が創出される。これが、実体経済のプロセスだ。日本銀行がどれだけ量的緩和を拡大しても、誰かが銀行からの借り入れを増やし、消費や投資(設備投資、住宅投資、公共投資のみ)としてモノやサービスを購入しない限り、実体経済には何の影響も与えない。
 理由は、量的緩和とは「国債の買い取り」であり、国債はモノでもサービスでもないためだ。

 日本政府(日本政府だけではないが)は、ありもしない「財政問題」に足を取られ、消費税増税を強行。日本経済の要である、個人消費を「抑制」した。揚げ句の果てに、政府自ら消費や投資を減らす緊縮財政を実施し、デフレ対策については日銀に丸投げしたのである。
 日本銀行は量的緩和政策を継続し、銀行から国債を買い取り続けた。銀行の貸し出し余力は高まっていったが、肝心の実体経済は“不景気”のままであり、民間は設備投資や住宅投資のためにおカネを借りようとはしなかった。結果的に、溢れかえった流動性が金融経済に流れ込み、株価を押し上げた。
 先日までの日本は、好景気だから株高だったのではない。むしろ、不景気で民間の資金需要が乏しく、おカネが金融経済に偏重して流れ込んだ結果、日経平均が2万円を超える水準にまで上昇したのである。

 同じ現象は、世界各国で見られた。特に酷かったのが、もちろん中国である。中国は輸入が2ケタ減で、発電容量や鉄道貨物輸送量も対前年比でマイナスに落ち込んでいる。共産党政権が認めるはずがないが、現在の中国経済はゼロ成長、もしくはマイナス成長に陥っている可能性が極めて濃厚なのだ。
 それにもかかわらず、株価だけが上昇した。上海総合株価指数は1年間で2.5倍にも膨張し、5000ポイントを突破したところでバブルが弾けた。中国の株式バブル崩壊をトリガーに、世界中に株安が伝播していく。実体経済と金融経済の“乖離”が、調整されようとしているのだ。

 実体経済(所得)は、誰かがモノやサービスを生産し、別の誰かが購入しなければ拡大しない。それに対し、金融経済(金融資産)の世界は、
 「誰かがおカネを借り、株式を買い、値段が上がり、また別の誰かがおカネを借り、株式を買い、値段が上がる」
 と、資産と負債が同時に増える形で膨張していく。政府が財政政策を怠り、実体経済におカネを回さず、株価頼みの経済運営を続けてきたのが、世界中で限界に達したのだ。

 というわけで、日本経済にとっては、補正予算を組む絶好の機会が訪れた。
 実質賃金は相変わらずマイナス。実質GDPも、4〜6月期はマイナス。このままの状況で推移すると、7〜9月期もマイナス成長は確実だ。2期連続の実質GDPのマイナス成長。すなわち日本経済は、またもや“リセッション(景気後退)”に突入した可能性が高いのだ。
 その上、株価も大きく下落し、円高。厳密には、「有事の日本円買い」が発生し、円高になり、株価が下落(日本の株式市場の取引の65%は外国人投資家である)。この状況で補正予算を組まないというならば、政治家は不要だ。全てを「市場」に任せて、日本経済の再デフレ化を受け入れるしかない。

 日本に「政治」が存在しているならば、10兆円を超す大規模補正予算を組むべきタイミングである。当然、諸悪の根源と言える消費税の再増税は「凍結」。できれば、5%に戻すべきだ。
 安倍政権にとって、正しいデフレ対策を実行に移す「絶好の機会」であり、同時に恐らくは「最後の機会」が訪れた。実際、ようやく与党内で「補正予算」の声が上がり始めたようである(遅いが)。

 自民党の二階俊博総務会長は8月25日の記者会見において、災害対策やインフラ整備を進める国土強靱化に「それなりの財政措置をしなければいけない」と発言。景気を刺激すると同時に、国土強靭化に資する補正予算の編成を促した。
 ところが、同じく8月25日に、麻生太郎財務大臣は
 「今の時点で新たな景気対策や補正予算の編成は考えていない」
 と、発言。筆者は愕然としてしまった。

 現在の日本の経済環境で景気対策や補正予算を否定するのでは、もはや「政治」でも何でもない。政治家であるならば、国民が貧困化していく現状を是正するために、権力を行使するべきだ。そのために、われわれ有権者は国会議員を選んでいるのである。

三橋貴明(みつはし たかあき/経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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