葉月あや 2019年5月2日号

本好きのリビドー(232)

掲載日時 2018年12月12日 15時30分 [エンタメ] / 掲載号 2018年12月20日号

快楽の1冊
『男を磨くための31章』 増田俊也 PHP研究所 1500円(本体価格)

★男らしさとは何かをあえて問う

 昔から自己啓発系ハウツー本の類は一切、読まない。だいたい電車の中など人前で平気でその手の本の頁をめくっていたら「こいつバカだな」と思われて然るべき書籍で筆頭の類だろう。

 やれ「20代にしておきたい」十幾つだの「30代までにやるべき」何やかやだの「40代で知らなければ恥をかく」云々だの、まして曰く「一流の人に学ぶ自分の磨き方」なんてタイトルを見せつけられた暁には、確実にせめてその後に「(笑)」が附されねば身が持たぬというもの。

 その点、一見、本当にごく一見、似たような題名の本書ではあるが、しかし著者が、小説とノンフィクションの垣根を全身全霊感みなぎる筆致でぶち破った重厚極まるあの歴史的大傑作、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の増田俊也氏ならば話は全く別も別。別別会計即現金、いな月月火水木金金だ。

 昨今いわゆるLGBTと呼ばれる人々を差別する気など毛頭ないが、とはいえ最近続々と著名人でそれを“カミングアウト”される面々が何か勝ち誇った感じ…とまでは言わずともなぜかしら妙に得意気にみえてしまうのは所詮、筆者の僻目だろうか。

 いずれにせよセクハラ、パワハラが論外に忌み嫌われるのとは違う次元で、ほんのわずかでもマチズモが香り漂うものなら敬遠されてやむを得ない現下の状勢。「十年とか二十年後には、男女という言葉が消滅しているかもしれない」(『まえがき』より)。

 かつて新渡戸稲造は『自警録』で丸々一章費やし“男一匹”の意味を説き、「漢」とも「侠」ともまた「人間」と書いてオトコとルビを振る時代すらあった。陳腐さを恐れず言えば装いを新たにした現代の『武士道』である。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 火附盗賊改―「ひつけとうぞくあらため」と読む。時代劇『鬼平犯科帳』の主人公・長谷川平蔵で知られた、江戸時代の犯罪者を取り締まり、捕縛する人物の役職名である。

 火附盗賊改は、架空の存在ではない。長谷川平蔵も延享2年(1745)〜寛政7年(1795)に実在し、そのうち7年間、火附盗賊改の任に就いていた。

 その平蔵をはじめ、火附盗賊改の知られざる実態と活躍を、江戸時代の資料をもとに解き明かしたノンフィクションが、この『「火附盗賊改」の正体 幕府と盗賊の三百年戦争』(集英社新書/760円+税)だ。

 長谷川平蔵は延べ200人超いた火附盗賊改の中でも在任期間が最も長く、200件に及ぶ検挙の実績を上げた名捜査官である。そして、火附盗賊改は奉行所と違い、場合によっては犯罪者をその場で斬り捨てることが許可されていた。なぜなら取り締まりの対象となったのが、盗賊や放火犯といった凶悪な犯罪者たちだったからである。

 その残忍非道な者たちに立ち向かう火附盗賊改の部隊員たちも、腕に覚えありの強者ぞろいだった。本書では、当時の警察の精鋭部隊と盗賊一味の捕物の一部始終や、苛烈を極めた詮議の様子などが生々しく語られ、さながら刑事ドラマを見ているようなワクワク感が満載だ。

 著者は歴史作家の丹野顯氏。江戸庶民の生活史を専門としているだけに、生き生きと、かつ詳細に力強く、江戸の治安維持に活躍した人々を現代によみがえらせている。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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