林ゆめ 2018年12月6日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第179回 地方創生回廊

掲載日時 2016年06月24日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年6月30日号

 あまり注目されていないが、6月1日の「消費税増税30カ月延期」表明の記者会見において、安倍晋三内閣総理大臣は、
 「新たな低利貸付制度によって『21世紀型のインフラ』を整備します。リニア中央新幹線の計画前倒し、整備新幹線の建設加速によって、全国を一つの経済圏に統合する『地方創生回廊』をできるだけ早く創り上げます」
 と語った。

 「新たな低利貸付制度」という言葉が気になるものの、リニア新幹線計画前倒しや、整備新幹線の建設加速を堂々と表明した点については評価できる。現在、日本国債は10年物国債金利までもがマイナスに陥っている(本稿執筆時点で▲0.118%)。しかも、市場価格のみならず、財務省から新規発行される国債までもがマイナス金利だ。
 例えば、政府が10年物国債を発行し、10兆円を借り入れる。何しろ「マイナス金利」であるため、政府に資本調達コストは生じない。そして、マイナス金利で借り入れた10兆円をJR東海に無利子・無担保で貸し出し、リニア新幹線の東京-名古屋-大阪間の開業時期を前倒しするのだ。
 リニア新幹線は、JR東海という「民間企業」の事業になる。長期金利がマイナス金利である以上、政府の財政投融資でJR東海に資金を貸し付け、リニア新幹線早期開業を目指すという政策は合理的だ。恐らく、安倍総理はこのことを念頭に「新たな低利貸付制度」という表現を使ったのだろう。

 とはいえ、リニア新幹線以外の整備新幹線については普通に建設国債と公共投資でやる必要がある。北陸新幹線の大阪延伸や、北海道新幹線の札幌延伸を急ぐと同時に、奥羽新幹線、羽越新幹線、山陰新幹線、四国新幹線など、基本計画はあるもののたなざらしになっている整備新幹線を「整備計画」化するのだ。
 基本計画が存在する各新幹線を整備するだけで、10年以上の長期プロジェクトになる。当然ながら、政府の建設国債、公共投資により「国家主導」で推進しなければならない。

 現在の日本にとって、リニア新幹線や整備新幹線により「地方創生回廊」を構築することは、さまざまな観点から望ましい政策になる。例えば、東京一極集中の解消だ。
 左ページの図(※本誌参照)の通り、高度成長期以降のわが国では、人口がひたすら東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に吸い取られ続けてきた。名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)や大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)は、1974年に高度成長が終焉を迎えるまでは、やはり東京同様に転入超過であった。とはいえ、'74年以降は大阪圏も名古屋圏もともに「横ばい」といったところだ。最近の大阪圏に至っては、転出超過が続いている。ただひたすら、東京圏が全国から人を吸い寄せ続けているのが現在の日本だ。

 1990年のバルブ崩壊以前、東京圏の転入超過率は所得格差との相関が高かった。すなわち、東京圏と地方の所得の「差」こそが、水が高いところから低いところに流れるように、大規模な人口移動をもたらしていたのだ。
 バブル崩壊後、東京の転入超過率は有効求人倍率との相関が強くなった。所得の差ではなく、そもそも「雇用があるか否か」が、国内の人口移動を引き起こす主因になったわけである。分かりやすく書くと、バブル崩壊後に東京圏への人口移動が継続した理由は、
 「そこに職があるから」
 という話なのだ。

 現在に至っても、東京圏における金融サービスや情報通信サービスなどの雇用機会は圧倒的で、継続的な人口の移動を引き起こす主因になっている。地方で製造業が下火になった結果、東京圏のサービス業が雇用の引き受け手になっていったのだ。
 今日、日本国中を見回しても、大幅な転入超過が続いているのは東京圏だけだ。2011年に東日本大震災が発生し、いったん東京圏への人口流入は下火になった。ところが、2013年には震災前の水準に戻ってしまい、相変わらず年間10万人が東京圏へと流入し続けている。

 東京一極集中を解消するためには、東京圏以外の地方の「サービス業」を興隆させ、雇用を創出する必要がある。そのためには、どうしたらいいのか。サービス業は製造業と異なり、「消費地」に拠点を設ける必要がある。「製品」は在庫や運搬が可能だが、サービスは不可能なのだ。
 例えば、飲食サービスを消費するためには飲食店に赴く必要がある。サービスは「生産」と「消費」が同時に行われるという特徴を持つ。
 というわけで、高速道路や高速鉄道といった交通インフラを建設することで、東京圏などの大都市部と、地方を短時間で結んでいく必要がある。例えば、北陸新幹線の開業は金沢の観光サービスの市場を「東京圏」まで広げた。結果的に金沢の観光業が活況を呈し、民間の設備投資(ホテル建設など)も拡大している。第157回でも書いた通り、交通インフラの整備は「日本を小さくする」。

 交通インフラを整備することで日本を「一つの市場」と化し、地方経済をサービス業中心に成長させることは可能なのだ。安倍総理の「全国を一つの経済圏に統合する『地方創生回廊』」が交通インフラによる日本の市場、商圏の統合を意味するのであれば、東京一極集中を解消し、地域経済を発展さえる上で完璧に正しい政策ということになる。
 問題は、公共投資や交通インフラの整備について、国民があまりにも無理解であるという点だ。安倍政権には、本稿で解説したような「交通インフラ整備の意義と意味」を、繰り返し国民に説明するようにしてほしい。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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