林ゆめ 2018年12月6日号

本好きリビドー(77)

掲載日時 2015年10月24日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年10月29日号

◎快楽の1冊
『霧(ウラル)』 桜木紫乃 小学館 1500円(本体価格)

 五社英雄は1980年代、陽の当たらない裏社会における女の情念を描く達人として人気を博した映画監督だ。'82年の『鬼龍院花子の生涯』などでたくさんの遊女、娼婦を登場させたが、その延長線上で『極道の妻たち』シリーズの1作目をヒットさせた。'86年の公開である。
 先週は柚月裕子の『孤狼の血』を紹介した。女性の立場から見事に恋愛がはらむ哀切を描いてはいたが、全体として女っ気はあまり感じられない。まことに男っぽいヤクザ映画の世界であった。
 しかし、本書『霧』は違う。女性作家が書いた女性が主役のヤクザ小説だ。そこが強烈に五社英雄作品を彷彿させるのである。
 舞台は北海道・根室。'60年(昭和35年)から物語は始まる。主人公・河之辺珠生の父親は地元最大手の水産加工会社を経営している。だが、自ら望んで芸者になった。それは三人姉妹の次女という気楽さと、家に対する不信感、反抗心による選択と言えよう。けれども人生は不思議なもので、いつしか歪んだかたちで家業と結び付くことになるのだ。
 別の水産会社社長の秘書をしている男、相羽重之に珠生は惚れた。彼は違法の賭場を開いていた罪で服役する。実は社長の身代わりで刑務所に入ったのだ。出所したあと、彼は本当の犯罪者として力を発揮していく。水産会社には戻らず、独立して相羽組を立ち上げたのだ。表向きは土木建築会社ということになっているが、実は汚れ仕事を行う組織犯罪グループであった。珠生は彼と結婚する。
 つまりは姐さんになるわけだが、河之辺家の長女は政治家を目指す運輸会社社長の息子と夫婦であり、相羽の裏の仕事は必然的に河之辺家と関わっていくのだ。家との、そして姉妹同士の確執と裏社会のひりひりした緊張感が絡み合い、女ならではの情念が渦巻く。暴力的に切ない恋愛小説だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 「人生一度、不倫しましょう」をスローガンとした不倫専門SNS、アシュレイ・マディソンの顧客情報が、ハッカーに盗まれたというニュースは、日本でも話題になった。海外に拠点を置くウェブサイトでありながら、わが国にも多くの利用者がいたという。
 書籍に目を向けても、不倫関連本は山積みだ。それほど不倫へのニーズは高い。今回は、そんな中から『はじめての不倫学』(光文社/820円+税)を紹介したい。
 著者の坂爪真吾氏は、『ホワイトハンズ』という一般社団法人の代表を務めている方だ。障害者の性の問題に取り組む組織だという。
 そういう方が書いただけに、不倫の恋に酔った好色男や人妻が、好き勝手に不貞行為を正当化したりする類いの内容ではない。不倫は誰にも起こりえる病気であり、“ワクチン”、つまり対症法が必要と説いている。
 では、どういう対症法が有効かというと、一つがスワッピングというのだから、言い得て妙。他の異性とセックスするのを互いに了承すれば、不倫でもないし、性も謳歌できるというわけだ。
 また、男性に推奨しているのが「会員制交際クラブへの登録」だ。それじゃ不倫と変わらんじゃないかと思うが、金で片付けることによって、男女の恋だ、ロマンだという、面倒くさいことを抜きに性を楽しめる。
 一見、乱暴な理屈にも見えるが、そうでもしなければ解決しないほど、もはや不倫は糖尿などの成人病と同じ、現代の“病”といえるのかもしれない。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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