本好きのリビドー

エンタメ・2020/04/05 06:00 / 掲載号 2020年4月2日号
本好きのリビドー

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『俳優 原田芳雄』原田章代・山根貞男 キネマ旬報社 2200円(本体価格)

★夫人、盟友らが魅力を振り返る

 その名を出演陣の中に見つけただけで言い知れぬ安堵感に包まれる…たとえ多少出来の悪い脚本や締まりのない演出でも、この人の顔さえ拝めるならいいやと思える役者はそうはいない。原田芳雄は筆者にとってまぎれもなくそんな俳優の代表格の一人だった。

 演じた役柄の強烈な印象から致し方ないにせよ、やたらとワイルドだの、アウトローだの、野性味ばかり強調されがちなイメージだが、私見では彼から常に香ったのはそれと背中合わせの母性。奇妙な表現でも父性でもなく、あくまで男の母性のような無限の優しさとオスの存在そのものの持つ哀しさ、つまり文学だったと思う。これは傑作『竜馬暗殺』から遺作となった『大鹿村騒動記』までを貫いてそうだ。

 そういえば、昔読んだ作家の西村寿行との対談が素晴らしく、確か彼が「あなたはなぜ小説のなかで女を凌辱する場面を描くときに、必ず後背位で犯させるのか」と真面目に質問している件がひたすらおかしかったものだが、本書によれば中上健次原作で、『日輪の翼』を監督として映画化する構想もずっと温められていたのがただ惜しまれるばかり。

 章代夫人へのインタビューを主軸に(破滅型の無頼なインテリを演じた鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』を終えた後に突如、“役者を辞めたい”と漏らしたなど秘話が続々)盟友・石橋蓮司やキャメラマンの眼から語られる人物像も興味深い。この際、最高のブルースシンガーでもあった原田芳雄のベストアルバム(『風のDOWNTOWN STREET』は特に名曲!)を大音量で聴きながら、本書を跳躍台に生前刊行のエッセイ集『B級パラダイス―俺の昨日を少しだけ』、そして、夫人の企画による『風来去』にも触れてほしい。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 コロナ騒ぎの影響でやたらと世相が殺伐として暗い。本くらいは思い切り笑える1冊を選びたい。そこで手に取ったのが『世界のエリートとか関係なく面白い猥談』(スモール出版/1000円+税)だ。

 著者は佐伯ポインティ氏。東京・阿佐ヶ谷にある日本初の完全会員制のバー『猥談バー』店主。

 そもそも猥談バーって、どんな店?

 要はエロ話をし放題の店。ポインティ氏は、「飲み会ってエロい話するのが一番面白くない!?」と、常々思っていたらしく、んじゃ、猥談だけ話すバーがあってもいいとオープン。

 確かに女子の前で公に話そうものなら、途端に「セクハラ」の誹りを受けかねない昨今、肩肘張らずにオトナの猥談を楽しもう…って、いいと思う。本には、店で夜な夜な交わされるよもやま話の中から、傑作選を集めて所収している。
「高学歴の男性が好きすぎて、高校時代の偏差値表でオナニーできる」(女性)
「髪を白色に染めた赤い口紅の女子と騎乗位でセックスしたら、歌舞伎みたいになってた」(男性)
「チ○コが小さい人ほど、『もっと奥までくわえて』なんて言う」(女性)
 など、かなりディープかつ特殊なエロネタが満載だ。

 猥談バーの客層は年齢・性別もさまざま。経験豊富な性豪も、童貞も処女もいる。ただし、性癖を否定したり連絡先交換、お触りNG。純粋に会話を楽しむ紳士淑女のサロンである。

 性について語ることができなくなった窮屈な時代の救世主かも…。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 刀根健
僕は、死なない。 SB Creative 1,500円(本体価格)

★現実に抵抗せず降参して身を任せる

――2016年9月に突然、ステージ4の肺がんと診断され、翌年には全身に転移が見つかりました。当時はどんな気持ちでしたか?
刀根 最初にがんが見つかった時は「何とかしなくては」という追い詰められた気持ちになりました。病院では「治らない」「延命しかできない」と言われたので、絶望や落ち込みを感じる暇もなく、“自分の力で生き残る”ためのサバイバルモードに移行しました。しかし、9カ月後に、さらに全身転移して「脳転移で来週にでも呼吸が止まるかもしれません」と言われ、すべてを手放してお任せするという“降参(サレンダー)”という境地を経験しました。

――絶望的な状況の中で、ある神秘的な体験をしたそうですね。その体験とは?
刀根 僕は標準医療では「治らない」と言われたのでそれを断り、代替医療を調べ尽くし、自分にできることを命懸けでやり尽くしました。しかし、それがすべて無駄だったと突き付けられた時、今までしがみついていた自分、いわゆる自我が崩壊しました。でも、その瞬間に僕に起こったのは、不思議なことに絶望ではなく“解放”だったのです。
 もうどうすることもできないという状況に追い詰められた時、自我が壊れ、その自我を超えた境地にアクセスしたことで、すべてを気持ちよく受け入れることができたのではないかと思います。

――奇跡を起こす“サレンダーの法則”とはなんですか?
刀根 目の前に起きていることは、例えそれが「受け入れられない」と感じることでも、自分のエゴを超えた世界では「起こるべきことが起こっている」と信頼することでしょうか。現実に抵抗せずに“降参”して、安心して身を任せる。すると、不思議なことがどんどん起こり、最後は不思議と上手くいく…。僕に起きたことはそういうことだったのかもしれません。

――現在は寛解の状態だそうですね。同じように病気を患っている人へアドバイスをお願いします。
刀根 まず「自分は治る」と信用することです。本書に登場する寺山心一翁先生の「がんは治る病気です」という言葉は、僕の希望になりました。そして、僕も絶望的な状況から寛解しました。
 僕ががんになった原因は“生き方”だと感じています。ですから、食事や生活習慣、思考習慣を含めて“生き方を変える”ことが大事だと思います。「私は治るプロセスを歩んでいる」と微笑みながら、自分の治癒の道を信頼して進むことだと思います。
(聞き手/程原ケン)

刀根健(とね・たけし)
1966年、千葉県出身。OFFICE LEELA(オフィスリーラ)代表。東京電機大学理工学部卒業後、大手商社を経て教育系企業に。’16年9月1日に肺がん(ステージ4)が発覚。翌年6月に新たに脳転移が見つかるも、1カ月の入院を経て奇跡的に回復。現在は、講演や執筆などの活動を行っている。

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