園都 2018年6月28日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第238回 資本主義を破壊するデフレーション

掲載日時 2017年09月24日 14時00分 [政治] / 掲載号 2017年9月28日号

 企業の内部留保が、相変わらず積みあがっている。財務省が9月1日に発表した法人企業統計調査によると、企業が利益剰余金などを蓄積した「内部留保」が、2016年度末時点で406兆2348億円と、ついに400兆円の大台を突破したとのことである。対前年度比でみると、何と7.5%もの増加である。

 内部留保とは、企業の純利益から配当金の支払い、および役員賞与など社外に流出する金額を差し引いたものだ。昨今の日本では企業の内部留保が毎年20兆円ずつ増えている。仮に企業が内部留保として蓄積されるおカネの全額を投資に回してくれた場合、日本のGDPはそれだけで4%成長することになる。
 とはいえ、現実の日本企業は投資を全く増やしていない。というよりも、むしろ減らしている。
 財務省の4〜6月期の法人企業統計(金融業・保険業を除く)によると、全産業の設備投資額(ソフトウエアを除く)は、3四半期ぶりに前期比で減少してしまった。特に、製造業が前期比で2期連続マイナスに陥っているのは注目すべきだ。さらに、非製造業もマイナスに転じてしまった。アベノミクスの効果とやらは、全く確認できない。

 非製造業(サービス業)は、生産年齢人口比率の低下を受け、超人手不足の状況に突入している。当然ながら、生産性向上のための投資が起こらなければならない状況なのである。
 それにも関わらず、現実には投資が伸び悩んでいる。企業は投資を手控え、ひたすら内部留保を貯め込む。
 なぜなのだろうか。

 もちろん、グローバル株主資本主義の影響で、人件費や投資を抑制し、可能な限り純利益を拡大し、配当金増額や自社株買いにおカネを回さなければならないという事情もある。配当金の支払いや自社株買いの原資は、法人税支払い後の純利益だ。企業が投資を拡大し、減価償却費として費用を計上してしまうと純利益は減る。
 とはいえ、日本企業は確かに配当金支払いや自社株買いも拡大しているが、それ以上におカネを内部留保として蓄積しているのだ。内部留保で貯め込むくらいならば、投資を増やしてくれてもよさそうなものである。

 そもそも、企業の目的は「投資」することで生産性を高め、利益を稼ぐことだ。設備投資、人材投資、技術投資により生産能力を高めることこそが、資本主義の基本なのである。結局、現在のわが国では資本主義が成り立っていないという話に尽きる。
 ちなみに、日本の長期金利は本稿執筆時点で▲0.01%と、またまたマイナスの領域に突入している。長期金利は、設備投資のために銀行融資を受ける際の基準金利だ。資本コストが史上最低な状況であるにも関わらず、企業は投資をしない。それどころか利益が増えても、投資を増やさずに現預金で貯め込む。

 人口構造の変化で、日本は明らかにインフレギャップ(供給能力不足)の状況に移行しつつあるにも関わらず、投資に踏み出せない。理由は、
 「目の前の需要が継続することを信じられない」
 「人手不足が継続することを信じられない」
 の2つが大きいのだろう。何しろわが国は20年もデフレーションが続き、「需要不足&人手過剰」の状況が続いてきた。

 人手不足かつ長期金利がゼロの状況においては、本来は生産性向上のための投資をすることが合理的となる。とはいえ、日本の経営者の「気持ち」的には、いかなる状況になろうとも投資をしないことが合理的になってしまっているのだ。つまりは、デフレ精神だ。
 というわけで、政府が財政出動をコミットし、長期の安定需要が見込めるようにならない限り、日本国民のデフレ精神は払拭できない。短期の需要創出ではだめなのだ。あくまで「長期」が必要なのである。

 上記を認識した時、わが国において、
 「政府が全国の防災や交通インフラ整備に支出するために、公共投資を継続的に増やす」
 ことが、いかに合理的であるか、誰にでも理解できるはずだ。民間が投資をしない以上、政府が投資をするしかない。
 とはいえ、相変わらずわが国の政府は、存在しない「財政問題」とやらに足を取られ、財政出動という正しいデフレ対策に踏み出せずにいる。しかも、財務省やマスコミは十年一日のごとく、陳腐な「国の財政を家計に例えると」というレトリックで国民の危機感をあおり、政府のデフレ対策を妨害してくる。

 もっとも、変化の兆しがないわけではない。
 日本の「存在しない財政問題」をあおり続けてきた戦犯の1人である日本経済新聞がコラム『大機小機』(9月2日付)において、何と「国を家計に例えるのはやめよう」と、恐ろしく真っ当な記事を掲載したのである。『大機小機』において、日経新聞は、
 「国と家計は異なる。家計は徴税できないが国はできる。通貨発行権という形の徴税権もある。財務省は借金を減らそうと増税を好むから、この間違いは議論を混乱させる」
 「国の財政を家計に例えるのは紛れもない間違いである。政府が間違ったことを公にしているのは問題があるだろう」
 と、財務省が政府の財政を「家計」に例えているレトリックを批判した。財務省のホームページには、いまだに「日本の財政を家計に例えると、借金はいくら?」という項目が存在する。そして、「日本は月収50万円の家計が80万円の支出をし、不足分30万円を借金で賄う結果、ローン残高が8400万円に達している」などと、荒唐無稽なレトリックで国民の危機感をあおっているのである。
 そもそも、『大機小機』にもある通り、徴税権や通貨発行権を持つ日本政府と、持たざる家計を同一視している時点で、財務省のレトリックは異常極まりない。しかも、日本政府の負債は100%日本円建てだ。子会社の日本銀行に日本円というおカネを発行させ、国債を買い取らせることで、借金の実質的返済負担が消滅する日本政府を、家計と同じ土俵で語れるはずがない。

 日本政府は、財政など気にせず、企業に代わり投資を拡大しなければならない局面だ。政府が大々的な財政出動に踏み切らない限り、わが国が資本主義を取り戻す日は、未来永劫訪れない。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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