和地つかさ 2018年9月27日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第239回 失業率と実質賃金

掲載日時 2017年09月28日 15時00分 [政治] / 掲載号 2017年10月5日号

 現在の日本国では、不思議な現象が起きている。失業率が主要国最低水準に低下するほど雇用が改善しているにも関わらず、実質賃金は相変わらず低迷しているのだ。なぜ、雇用環境が改善しているにも関わらず、実質賃金は上昇しないのだろうか。
 2017年7月の完全失業率は2.8%と、3%を切っている。有効求人倍率に至っては1.52(!)。求職者1人に対し、求人が1.5あるわけだ。さらに、正規社員の有効求人倍率も1.01と統計史上初めて1倍を上回った。職種や地域を選ばない限り、現在の日本は求職者の「全員」が正規社員になれるということになる。
 ちなみに、有効求人倍率1.52とは、何とバブル期をも上回る水準だ。日本はバブル期よりも景気がいいのだろうか。そんなはずがない。

 日本の雇用が改善しているのは、二つの要因によるものだ。一つ目は、生産年齢人口(15歳〜64歳)が総人口に占める割合が下がっていること。少子高齢化の進展で日本の生産年齢人口比率は、バブル期の約70%から現在は60.1%にまで下がっている。高齢化し、労働市場から退出する人の数を、労働市場に新規参入する若い世代の数が下回っている以上、生産の拡大がなかったとしても、失業率は下がる。
 二つ目は、企業が退職者の穴埋めとして、短時間労働の雇用を増やしていることである。フルタイムの労働者が労働市場から退出し、短時間労働者を多く雇うことでカバーしようとするため、当たり前だが失業率は下がる。

 左図(※本誌参照)の通り、恐ろしいことに'16年の総実労働時間(月平均)は、何とリーマンショック後の'09年をも下回っているのだ。失業率は、リーマンショック後5%を超えていた。現在は3%を割り込んでいる。明らかに、フルタイム雇用が減り、短時間労働の労働者が増えているわけだ。
 現在の失業率の改善は、安倍政権の経済政策の成果でも何でもない。単に生産年齢人口比率が低下する状況で、企業がフルタイム雇用を短時間労働に切り替えている結果なのである。経済政策の成果で、モノやサービスという付加価値の生産が増え、失業率が下がっているならば、実質賃金は上昇しなければならない。ところが、現実には実質賃金の低迷が続いている。
 それはもちろん、フルタイム雇用が短時間労働に切り替えられているわけだから、名目賃金の平均値は下がる。結果的に、実質賃金も下落するわけである。

 実質賃金とは、物価の上昇率を控除した賃金になる。例えば、給料が5%上昇したとする。同じ時期に物価が10%上昇してしまうと、稼いだ給料で購入できるモノやサービスの量が減ってしまう。これが実質賃金の下落、分かりやすく書くと「貧困化」だ。逆に給料が5%上昇したのに対し、物価は2%しか上がらなかった。この場合、稼いだ給与で買えるモノやサービスの量が増える。実質賃金の上昇、つまりは「豊かになった」わけである。
 日本の実質賃金は、橋本政権が緊縮財政を強行('97年)し、経済がデフレ化した以降、恐るべきペースで下落していった。直近の実質賃金は、何とピークの'97年と比較し、マイナス15%。日本にとって過去20年は国民が貧困化していった歴史なのだ。
 念のために書いておくが、'12年に第二次安倍政権が発足して以降、実質賃金の下落はむしろ加速した。安倍晋三総理は日本の憲政史上、最も「国民を貧しくした」内閣総理大臣なのである。

 本来、有効求人倍率が1.5倍を超える「異常」な人手不足に突入している以上、企業は名目賃金を、物価上昇率を上回るペースで増やさなければならない。物価上昇率を名目賃金の増加率が上回れば、実質賃金は上昇する。ところが、名目賃金を引き上げるために必要な生産の拡大、生産性の向上は起きていない。
 実質賃金は「生産性向上」と「労働分配率」の二つの要因で決定される。生産性向上とは、生産者(労働者)1人当たりの生産の拡大のことだ。
 現在の日本は、相も変わらずデフレーションで、生産が十分に拡大していない。目の前の生産が増えているわけではない、あるいは生産の拡大を「信用できない」ため、企業は人手不足が日に日に深刻化する中においてすら、生産性向上のための投資に乗り出さない。結果、実質賃金は抑制される。

 さらに、実質賃金の低迷には、企業が労働分配率を引き下げていることも影響している。労働分配率とは、生産された付加価値(=所得)から人件費として分配される割合だ。
 企業が稼いだ所得から、従業員への分配を増やさなければ、実質賃金は上昇しない。極端な書き方をすると、企業の所得(=利益)が拡大したとしても、労働分配率が下がると、従業員の給与はむしろ減る。
 財務省の'17年4-6月の法人企業統計調査によると、資本金10億円以上の大企業の労働分配率は、わずか43.5%。高度経済成長期だった'71年1-3月以来、何と約46年ぶりの低水準を記録した。大企業の労働分配率は、リーマンショック直後には65%に達していたため、落ち方は半端なものではない。
 企業全体の労働分配率は、リーマンショック直後に75%だったのが、直近では67.5%と70%を割り込んでしまっている。GDPが低迷し、生産が拡大しない以上、生産性は上昇しない。さらに、企業が労働分配率を引き下げている。

 安倍政権が実質賃金を引き上げたいならば、財政出動により需要=生産を安定的に拡大し、同時に労働分配率を引き上げる労働規制の強化に乗り出さなければならないのだ。とはいえ、現実の安倍政権は緊縮財政と労働規制緩和を推進している。現在の実質賃金の低迷は、安倍政権の経済政策の当然の帰結なのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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