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やくみつるの「シネマ小言主義」 青木ヶ原の樹海も“クールジャパン”に!? 『追憶の森』

掲載日時 2016年04月29日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年5月5日号

やくみつるの「シネマ小言主義」 青木ヶ原の樹海も“クールジャパン”に!? 『追憶の森』

 いやぁ、不思議な映画でした。富士山の裾野に広がる青木ヶ原の樹海に、フラフラと足を踏み入れていく主人公のアメリカ人アーサー。目的はもちろん「死ぬには最高の場所」として知られる、かの森で自らの命を終わらせるためです。そこに突然、助けを求める傷だらけの日本人が現れます。渡辺謙扮するナカムラ・タクミです。
 「なんでまたアメリカからわざわざここに?」とか「どういう事情で死のうとしてるの?」などの観客の疑問に対する答えは、アーサーの心の中でしばしばフラッシュバックする“追憶”シーンで、次々に明らかになっていきます。
 ところが、渡辺謙の方は、一向に事情が明らかにならない。ずっと待っているこちらは不完全燃焼な状態が続きます。しかし、この「謎」こそがミステリーを解く鍵となりますので、ぜひ辛抱強く見続けていただきたい。
 私は最後の5分でやっと合点がいって、パンフレットに書いてあった「パズルのピースがすべてはまった後、振り返ってもう一度最初から見たくなる」の心境でした。

 それにしても、もちろん脚本はフィクションで、樹海の描写のどこまでが事実か分からないのですが、舞台の本作が「日本の青木ヶ原」と特定されて、海外で公開されてしまったらどうなるんでしょう。外国人が続々と押し寄せている“クールジャパン”の一つのジャンルとして、「世界の皆様、お待ちしております」的状況になったら、山梨県警及び現地の人はいい迷惑ですよね。
 実際、年に一度、遺体捜索があるというのは聞いたことがありますが、映画に出てくるバギーを乗り回して捜索するレンジャー隊や、監視塔などは本当にあるのかどうか…。少なくとも、映画に出てくる樹海全体を上から眺望できる高台はないだろうな、なんてことを想像しながら見ていました。

 ともあれ、昨今の来訪者数の急増につれ、今や日本は「極東のガラパゴス」ではなくなってしまったということですね。
 日本人ですら、タブー視して話題から遠ざけるような青木ヶ原までが開示されて、「ユーは何のために日本へ? ついて行ってもいいですか?」と声掛けし、妙に暗い外国人についていったら青木ヶ原だった…みたいなコントが成立しかねません。
 「富士山は巨大な墓石である」という言い方もありますが、日本人は死に場所を提供するほどにはオープン化していませんよ、本当に青木ヶ原に来ちゃだめですよ、とテロップ入れていただきたいくらいです。

画像提供元:(C)2015 Grand Experiment, LLC.

やくみつる漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。追憶の森
監督/ガス・ヴァン・サント 出演/マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツ 配給/東宝東和 4月29日(金・祝)より全国ロードショー。
 人生に絶望して自殺を決意したアメリカ人男性アーサー(マシュー・マコノヒー)は、富士山麓に広がる青木ヶ原樹海を訪れる。携帯電話も通じない森の奥深くで、出口を求めてさまよう日本人男性タクミ(渡辺謙)と遭遇。アーサーは、ケガを負っているタクミを放っておけず考え直して一緒に出口を探すことに。妻子のところへ戻りたい一心のタクミと互いのことを語り合ううちに心を開いていく2人。やがてアーサーは、死を決意するきっかけとなったある出来事について話し始めるが…。

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