森咲智美 2018年11月22日号

本好きリビドー(195)

掲載日時 2018年03月17日 14時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年3月22日号

本好きリビドー(195)

◎快楽の1冊
『右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない。』 坪内祐三 幻戯書房 2850円(本体価格)

 何にせよ頼りになる目利きがいてくれるのは心強い限りで、誠に勝手ながら筆者にとっては映画(それも特に邦画全般)なら快楽亭ブラック師匠、書籍では坪内祐三氏がそれぞれ下す評価に全幅の信頼を置かせてもらうことにしている。実際、坪内氏が書評で紹介する本は氏がたとえ熱く推薦していなくとも、つまりさほど面白くなくともつまらなかったためしがない(ここが微妙だけど重要だ)。
 去年の衆院選を契機に小池百合子都知事が巻き起こした一連の騒動を傍観してつくづく、右翼と左翼、保守とかリベラルといった言葉自体が急速に空洞化してゆく状況にめまいを覚えかねない事態だが(安保法制や憲法改正に賛成なのが「右」で、反対それも安倍政権下での、でしたっけ? なのが「左」なのか? その「左」の人々の中核をなす、かつて在日外国人への参政権付与に熱心だった旧民主党指導部の面々を中心とする立憲民主党の自己認識が「保守」、というんだからもう訳が分からない)、こうなるとまだ「革新系」とか「進歩派」とかいう言葉が、中身の良否はさておき実質としての意味をまがりなりにも伴っていた時代がのどかに懐かしい。
 「ネトウヨ」や「テレパヨ」などの単語がもはや罵倒語でしかない現在、あるいは文藝春秋の論調が朝日新聞みたいになった今、改めて問われ吟味されるべきはいにしえの昔、孔子が語った「必ズヤ名ヲ正サンカ」。言葉とそれが意味する内実との正確明瞭な一致こそ大事、と確認するまでもない今更の基本に立ち還って、真に読むに耐える言論であり原論だろう。
 加えて必要な著者の言う“ゴシップ的感受性”を養うためにも、あとがきで“たぶんこれは私の最後の評論集になるでしょう”だなんて、言わずにいてほしい。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 タイトルは『彼女たちの売春』(新潮文庫/税込680円)「売春」とあるが、「ワリキリ」と読む。つまり、仕事としてカラダを売る職業娼婦や風俗嬢ではなく、一般女性がSNS等を通じて知り合った男に、割り切って性交渉を提供する“個人売春”、援助交際のルポである。
 「ワリキリ」でカネを稼ぐ女性たちに、その実態に詳しい評論家の荻上チキ氏が直接インタビューしており、なぜ売春せざるを得なかったのか、家庭環境は? 生い立ちは? などを綿密に聞き取り取材している。
 浮かび上がってくるのは、まず貧困だ。売春は「人類最古の職業」といわれるが背景には必ず貧困があり、裏を返せばワリキリ女性たちは違法と知りながらもカラダを売る以外、十分な収入を得る術がない。
 また精神疾患の女性もいる。俗にいう“壊れた”女性だ。自傷(みずからを傷つける)手段としてこの稼ぎ方を選んだ女性もいれば、心を病んでいるため満足な職に就けないから客をとる人も…。ワリキリ女性の中にDV経験者が少なからずいることも、本を読んで初めて知った驚くべき事実だった。
 そして考えさせられるのは、貧困、鬱、DVといった現在の日本が抱える病が放置されたままである結果、ワリキリ女性の出現が後を絶たないということ。また女性たちも、客を指して「気持ち悪い」と拒絶し、本音を吐露しているにも関わらず、どうしても辞めることができない矛盾。それが手に取るように伝わってくる、読み応えのある労作。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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