葉加瀬マイ 2018年11月29日号

プロレス解体新書 ROUND62 〈前田vsゴルドーの真相〉 格闘技の礎となった“過剰”な一戦

掲載日時 2017年08月14日 16時00分 [スポーツ] / 掲載号 2017年8月17日号

 1988年8月、超満員の観客に埋め尽くされた有明コロシアムで、前田日明vsジェラルド・ゴルドーの一戦が行われた。防戦一方の前田が逆転勝利を収めたこの戦いは、凡戦か、それとも名勝負なのか?

 UWFをけん引した“格闘王”前田日明。新日本プロレス時代に古舘伊知郎が連呼した“黒髪のロベスピエール”とのキャッチフレーズから、プロレス界の革命児のイメージを持つ人も多いだろう。
 だが、改めて見たときに、前田自身がその意思によって革新的な一歩を踏み出したという事例は、案外と少ない。
 「最初にUWFへ移籍したのは社命によるものですし、そのUWFに格闘色を持ち込んだのは後から合流した佐山聡です。第2次UWFやリングスの旗揚げにしても、前田自身が積極的に動いたというよりは、流れに身を任せた部分が少なからずありました」(プロレスライター)

 UWFのスタイルについて“プロレスから総合格闘技へと移行する橋渡しになった”と評価する声もあるが、それは今になって言えること。そもそも総合格闘技という概念すら定まっていなかった時代なのだから、UWFがそれを目指したというのはやや無理のある推論だろう。
 「結局、前田自身も語っているように、『猪木さんの言う“理想のプロレス”を追求しただけ』というのが掛け値なしの真相なのでしょう」(同)
 とはいえ、何をやるにおいても“過剰”な前田だからこそ、普通にプロレスをしていてもその枠内に収まり切らず、自然発生的にUWFの進化が起こったとも言える。その意味でやはり前田は特別な存在であった。

 そんな前田がジェラルド・ゴルドー('95年には反則のサミングで、修斗の中井祐樹を失明させるなど悪しき過剰さで知られる)と対戦したのは、第2次UWFが旗揚げしてから3カ月後の'88年8月13日、まだ天井がなかった時代の有明コロシアムで開催された『真夏の格闘技戦』のメインイベントだった。
 しかし、この試合が後に物議を醸すことになる。ゴルドーがインタビューなどにおいて、前田戦が純粋な格闘技ではなく「あらかじめ結末の決まった試合だった」と話したのだ。

 UWFがプロレスの範ちゅうにあったと指摘する声は、それ以前から各所で囁かれていたが、当事者があからさまに語ったことのインパクトは大きかった。これにより格闘技ファンからは“やはり前田とUWFはガチンコではなかった”と、批判を一層強く受けることになる。
 「実際のところ、この大会の時点ではまだUWFも試行錯誤の段階で、山崎一夫と田延彦の対戦などは、山崎がハイキックからの3カウントピンフォール勝ちという従来のプロレス的な結果となっています。そのような新日参戦時の延長線上として見たときには、前田vsゴルドーもいろいろと興味深いんですけどね」(格闘技ライター)

 この試合の前年、極真空手の世界大会で初来日したゴルドーは、その長身もあって“白いウィリー・ウイリアムス”とも呼ばれた強豪で(当時は和彫りの刺青は入れていなかった)、前田に対しても評判に違わぬ鋭い蹴りを次々と放っていく。
 また、グラウンドの展開になったとき、すぐに体を入れ替えて上になる体さばきからは、生来の“格闘技勘のよさ”が感じられた。
 「この頃はまだ、ポジショニングという考え方が一般的ではなく、前田が極め切れなかったというのもあるのでしょうが、それを差し引いてもゴルドーの動きは天性の才能を感じさせる素晴らしいものでした」(同)

 一方の前田はというと、プロレスラー相手なら有効な蹴りもその道のエキスパートであるゴルドーには通じず、苦し紛れのタックルも簡単に潰されてしまう。
 「腰が入らないまま手から飛び込むいわゆる“くわがたタックル”で、この頃はタックルの練習自体をほとんどしていなかったのかもしれません。ただ技術的には物足りなくとも、驚かされるのはその根性。並みの選手なら、2〜3発も食らえば戦意喪失となって不思議のないゴルドーのローキックや膝蹴りを受けまくりながら、それでも向かっていく前田はやはり尋常ではない」(同)

 この試合がゴルドー自身の言うような疑似格闘技で、フィニッシュとなった“ハイキックを前田がキャッチしての裏アキレス腱固め”が、両者の事前打ち合わせの通りに行われたものであったとしよう。
 しかし、そうした試合にあってもなおガチの蹴りを繰り出すゴルドーと、それを受けてもへこたれない前田のいずれもが、傑出したファイターであることには違いあるまい。そんな前田の過剰なスタイルが、日本の格闘技の礎となったのは前述の通りだ。

 またゴルドーも、この後に参戦したUFCの記念すべき第1回大会において、倒れた相手の顔面を容赦なく蹴り上げる過激ぶりを披露。そんなゴルドーを柔術の技術できれいに仕留めたホイス・グレイシー共々、総合格闘技を世間に周知させる上で一役買うことになる。

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