菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(71)

掲載日時 2015年09月11日 17時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年9月17日号

◎快楽の1冊
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』 ケイン(池田真紀子=訳) 光文社 880円(本体価格)

 先週は藤田宜永の『血の弔旗』を紹介した。その際、ノワールという小説、映画のジャンルについて書いた。そもそも私たちは犯罪を描いたフィクションを好きになる生き物だ。自分の攻撃衝動、罪を犯してみたい、という漠然とした負の願望をストレートに発散することに対し、ためらいが生じるのは当然。刑務所に入るのは嫌だからだ。しかし、そうした衝動、願望は決して消失することはない。なので、フィクションに接する疑似体験で、気持ちを解消するわけである。
 ノワールの元祖を知ろうとするとき、あまり昔の文学史にこだわっていては切りがない。聖書にも、日本の平安時代の小説にも、人間の負の願望が盛り込まれているのだが、そこまでさかのぼって順番に文学史を勉強していては、死ぬまでノワールのことは分からないだろう。勉強を完結できないまま生涯を終えるだけだ。
 ただ、ノワールを生み出すきっかけとなった犯罪小説の元祖となれば、誰もが知っているスタンダールの『赤と黒』を筆頭に挙げることができるだろう。フランスで1830年に出版された。もちろん1860年代から『罪と罰』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』などを生み出した、ドストエフスキーの存在も重要だ。
 今、私たちはミステリー小説隆盛の立役者として、エドガー・アラン・ポーやコナン・ドイルなどをすぐに連想するが、それとは別に、犯罪をきっちり描く名作を残したスタンダール、ドストエフスキーがいたことを忘れてはならない。
 彼らの直系の子孫がジェイムズ・M・ケインだ。まさしく犯罪者の独白でつづられる『郵便配達は二度ベルを鳴らす』は、1934年にアメリカで刊行された。犯罪文学とミステリーを合体させた彼がいたからこそ、ノワールというジャンル名が成立したのである。必読の書と言っていい。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 三十路熟女のむせ返るような濃厚エロスが、満載の短編漫画集を紹介。『誘惑!! もぎたて都市伝説』(リイド社/552円+税)だ。同社の人気漫画誌『MEN'S GOLD』の連載を1冊にまとめたもので、読者から送られてきた性体験手記を漫画化している。
 バイトをしていた「なんでも屋」で出会った離婚歴アリの女社長に、ワンボックスカーの荷台でセックスの手ほどきを受ける大学生、巨根に貫かれると局部が締まる女性編集者に、思わず中出しする若い男…。
 マイホームの建設中に、妻の実家に居候していた義姉と関係を結ぶ会社員、長期出張先のビジネスホテルでマッサージを頼むと、やって来たのは真面目な雰囲気だが色っぽい女だった…など、いずれも年下男子が誘惑されるストーリーだけに、淫靡でディープな交尾シーンと女の性の描き方は、極上といっていい。
 30代前半の人妻、未婚、バツイチなど、女たちがこれでもかと男に責め立てられてあえぐ姿が、生唾ゴックンである。
 著者の大見武士は実話系エロスの作品集『世にもHな都市伝説』(同社)なども手掛けており、巨乳でウエストがくびれた女性たちの丁寧、かつ安定した作画は、人気が高いという。
 しかも、登場人物たちが生活感に溢れ、身近に感じるためか、エロ漫画でありながら現実離れしていない。それだけに、読む者が感情移入しやすく、興奮度も高い。
 一度読むとハマること請け合いである。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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