森咲智美 2018年11月22日号

やくみつるの「シネマ小言主義」 「泣かせるんじゃない」とLiLiCoに即メール 『幸せなひとりぼっち』

掲載日時 2016年11月27日 14時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年12月1日号

やくみつるの「シネマ小言主義」 「泣かせるんじゃない」とLiLiCoに即メール 『幸せなひとりぼっち』

 スウェーデンで国民の5人に1人が見たほどの記録的ヒットとなったこの映画。
 作品のパンフレットを見ましたら、この映画批評コーナーを隔週で交代に担当しているLiLiCoさんの故郷の映画ということで、彼女の対談が掲載されていた。で、見終わったあと、早速にメールしました。
 メールの内容は一言「このバカ、泣かせるんじゃない!」。映画の主人公のセリフをマネて「バカ」呼ばわりしてしまいましたが、すぐに「いい映画でしょ〜」と返信が! とにかく、偏屈で頑固な主人公のオーヴェに、激しく感情移入してしまった1本です。

 自治会のルールを厳格に守り、違反者には文句を言わずにはいられないオーヴェよろしく、自分もゴミの分別などが大好き、交通ルールも絶対に遵守派です。
 一方で、彼と違うのは「タッパ」。おそらく180センチ以上はありそうなオーヴェに対し、自分は168センチしかないですから、こんなに威風堂々と存在できません。「ちっちぇージジィが何言ってんだ」みたいな扱いを受けることでしょう。「自分も高身長であれば…」と思わずにはいられません。

 彼は43年勤めた会社をリストラされ、妻にも先立たれてしまい、悲嘆に暮れます。私も基本的に1人が好きで、友達も極端に少ないですから、仮にカミさんに先立たれたら、後を追おうとは思わないまでも、絶望的な孤独感にさいなまれることは火を見るより明らかです。
 オーヴェがエライのは、外にも自分にも厳しい点。妻の死後も家の中は驚くほどキレイです。自分に甘い私だったら、翌日には荒廃しきっていることでしょう。
 その他にも、高福祉国家スウェーデンのお国事情も垣間見られて面白い。1人寂しいオーヴェは、ことあるごとに亡き妻のお墓参りに行くのですが、芝生が敷きつめられた公園のよう。まるで添い寝をするごとく、墓の横に寝そべったりする。日本じゃそんなことはとても無理だし、仏壇の前に座ったとしても「ここにいる感」は少ないですからね。

 それから、ちょっとした行き違いで関係を断っていた古い友人が要介護状態になり、無理やり施設に強制収容されそうになるシーンがあるのですが、施設に入れようとする役所は横暴だという描写には驚きました。日本だと、施設に入れず、老老介護で共倒れなんてことが社会問題になっていますが、まったく逆なんですね。
 可愛らしい平屋の共同住宅に住むご近所さんたちが、協力して強制収容を阻止するなんていう近隣の連帯も健在。ちょっとうらやましくもなった映画でした。

画像提供元:(C)Tre Va¨nner Produktion AB. All rights reserved.

■『幸せなひとりぼっち』脚本・監督/ハンネス・ホルム 出演/ロルフ・ラスゴード、バハー・パール、フィリップ・バーグ、アイダ・エングヴォル、カタリナ・ラッソ 配給・宣伝/アンプラグド 12月17日(土)より新宿シネマカリテ・ヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次公開
 愛する妻を失い、悲しみに暮れるオーヴェ。1人きりの人生に希望を見出せず、墓参りの度に失意を募らせていた。そんなある日、隣の家にパルヴァネ一家が引っ越してくる。車の駐車、病院への送迎、娘たちの子守など、困惑するオーヴェのことなどお構いなしに、次々と問題を持ち込む隣人にうんざりする日々。しかし、それはいつしか日課となり、次第に心を開いていくオーヴェは、愛する妻との思い出を語り始めるのだった。

やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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