菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第152回 緩やかな回復基調

掲載日時 2015年12月05日 14時00分 [政治] / 掲載号 2015年12月10日号

 「雇用、所得環境は改善しており、緩やかな回復基調は続いていると考えているが、この結果をよく分析したいと思う」
 「一部に弱さが見られるものの、企業収益は過去最高水準にあり、雇用、所得環境の改善が続くなど緩やかな回復基調が続いている」
 「日本経済は一部に弱さが見られるものの、穏やかな回復基調にある」
 これらは2015年7〜9月期の実質GDPが、対前期比で▲0.2%(年率換算▲0.8%)となったことを受けた政府要人の発言だ。初めから順番に、それぞれ安倍総理大臣、甘利経済再生担当大臣、菅官房長官の発言になる。
 緩やかな回復基調とは、果たして何なのか?

 「景気」の定義は、国民が生産者として働き、モノやサービスという付加価値を生産し、顧客に消費・投資として支出(購入)してもらった結果、創出される所得の変動のことである。所得創出のプロセスにおいて、付加価値の「生産」、消費投資という「支出」、そして所得の「分配」の3つは、必ずイコールになる。結果、国内総「生産」すなわちGDPは、生産面、支出面、分配面という3つの面を持ち、3つのGDPの「面」は、必ず同額になる。これを「GDP3面等価の原則」と呼ぶ。
 すなわち、景気が良いとは、国民が生産した付加価値への支出が増え、生産者の所得が拡大しているという意味になるのだ。「緩やかな回復基調」が何を意味するのか、さっぱり分からないのだが…。

 とりあえず日本経済の「景気」は悪化している。今年の4〜6月期の実質GDPも対前期比▲0.2%だった。7〜9月期も▲0.2%に終わったため、これで2期連続のマイナス成長ということになる。
 ちなみに、2014年の4〜6月期、7〜9月期もマイナス成長であった。2期連続でマイナス成長に陥ることを「リセッション(景気後退)」と呼ぶ。
 日本国は2014年、2015年と、2年連続でリセッションに突入してしまったことになるわけだ。全ては、安倍政権の経済政策の失敗が原因だ。日本国の憲政史上、2年連続で国民経済をリセッションに叩き込んだ政権は存在しない。安倍政権は、史上初めて日本国の経済を2年連続でリセッションに叩き込んだ政権として、歴史に名を残したことになる。
 それにもかかわらず、政府は首相も閣僚も、
 「緩やかな回復基調が続いている」
 という、抽象的な表現でごまかそうとしている。もはや“お手上げ”という印象を覚えたものだ。

 なぜ、日本経済は2年連続でリセッションに陥ってしまったのか。本連載の読者には、今さら説明は不要だろう。
 安倍政権は「デフレ脱却」を標榜しながら、デフレについて「貨幣現象」という間違えた(あるいは曖昧な)捉え方をした。デフレーションという経済現象は、バブル崩壊と緊縮財政により国内の支出(=需要)が激減することで発生する。すなわち、デフレーションとは「総需要の不足」なのだ。

 本来のデフレの定義「総需要の不足」という認識を持っていれば、総需要抑制策である消費税増税や介護報酬引き下げ、公共事業の削減など、緊縮財政路線を推進できるはずがない。
 ところが、安倍政権は「デフレは貨幣現象」論に基づき、デフレ対策を日本銀行に丸投げした。デフレが、竹中平蔵氏らが主張するように「マネー(貨幣)の不足」が原因ならば、'13年4月以降、日本銀行が量的緩和政策として180兆円を超える新たな日本円を発行したにもかかわらず、インフレ率が直近で▲0.1%に落ち込んでしまっている現実を説明できない。

 正直、日銀はよくやっている方だと思うが、日本銀行の量的緩和は「国債」を買い取るわけで、生産者たる国民が生産したモノやサービスが購入されるわけではない。
 モノやサービスの購入のことを「需要」と呼ぶ。日本銀行は180兆円超の通貨を発行したが、モノやサービスが買われたわけではないため、需要は拡大せず、インフレ率もマイナス0.1%に戻ってしまった。

 むろん、デフレ期に日本銀行が量的緩和政策を実施することは、適切な政策ではある。だが、それだけでは不十分なのだ。本来であれば、日本銀行の量的緩和と同時に、政府が銀行に溢れ返ったおカネ(実際、溢れ返っている)を国債発行で借り入れ、国内で消費、投資として支出しなければならなかった。すなわち、生産者が生産するモノやサービスという付加価値を購入することで、需要を拡大する必要があったのだ。
 ところが、安倍政権は'14年度以降に緊縮財政路線に転じ、消費税を増税。介護報酬を削減し、公共事業まで支出を絞り込み始めた。
 誰かがカネを使う必要がある環境下で、政府が「国民にカネを使わせない。自分も使わない」緊縮財政路線を突き進んだ以上、物価が下落傾向になり、経済成長率がマイナスになって当たり前だ。

 ちなみに、今回の経済成長率(のマイナス)の中身を見ると、実は外需寄与度は0.1%のプラスとなっている。「内需」が▲0.3%となり、全体の足を引っ張ったのだ。マイナス成長を「誰かの責任」に転嫁したい安倍政権が、「好調だった中国の経済失速が原因だ」とやりたくなるのは分かるが、外需寄与度がプラスであるという現実を踏まえる必要があるだろう。
 落ち込んだ内需の中身を見ると、民間最終消費支出、民間住宅はプラスなのだが、民間企業設備(設備投資)がマイナスになっている。しかも、設備投資は4〜6月期、7〜9月期と連続でマイナスだ。

 さて、2年連続で日本経済をリセッションに叩き込んだ記念すべき安倍政権は、どうするのだろうか。当然ながら、大規模補正予算を組んでもらわなければならない。とはいえ、現状の安倍政権は構造改革や緊縮財政路線を走り続けており、現実を見ようとしていない。
 日本国民は安倍政権に「現実」を突き付ける必要があるだろう。
 安倍政権は「日本の憲政史上、経済を2年連続でリセッションに叩き込んだ、記念すべき政権」なのだ。
 これが事実であり、結果である。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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