菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(134)

掲載日時 2016年12月17日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年12月22日号

◎快楽の1冊
『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』 羽田圭介 講談社 1600円(本体価格)

 作者は2015年に『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を獲得した。同時受賞者であるピースの又吉直樹が大いに話題を集めたが、こちらの作者もテレビ出演などが増え、知名度を上げた。しかし、もちろん本業が小説家であることに変わりはなく、タレントになったわけではない。本書『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』は受賞後第一作だ。期待をしていた読者は多いだろう。果たして密度の濃い力作となった。迫力あるエンターテインメント性に加え、実に深い知性、探究精神にもあふれている。
 ストーリーを大まかに言ってしまえば、ゾンビ小説である。舞台は現代の日本だが、全国でゾンビが出現し始める。かみつかれた者もゾンビと化す。主人公は複数いて、脇役も活躍を見せる。襲われるのを何とか回避しようとおのおのが躍起になる。逃げて、闘う。明確にホラー作品なのである。
 しかし、そういうテイストが本作の一番の魅力というわけでもない。メタフィクション、すなわちフィクション内でフィクションを批評するタイプの作品でもあるのだ。
 主要人物に作家が含まれている。Kは10年前に新人賞を受賞してデビューした。最初こそ注目されたが次第に原稿依頼が減り、極貧生活を送るようになった。当然、苦境から脱する方法を見つけ出そうとする。彼と同時受賞した理江は桃咲カヲルというペンネームを持ち、雑誌の対談ページなどで知名度を保っているが、10年で3冊しか出していない。真の作家とはどういうものか、悩み続ける2人にクセのある編集者も関わりを持ち、出版業界の内情が描かれる。それが文学論にまで発展する。
 ホラーとメタフィクションがどう絡み合うのか、ぜひ読んで確かめていただきたい。無理やり両者を結び付けているわけではない、と結末で納得できる。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 1980年代に一世を風靡した名物AV監督・村西とおるのノンフィクション『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版/2400円+税)を紹介しよう。
 実は知らなかったのだが、村西氏は前科7犯、借金50億円を抱えながら返済し、アメリカ司法当局からは370年の求刑を受けていたという。
 一方で有名AV女優と結婚して子どもをもうけ、その子が有名小学校に入学するなど、すべてにおいて規格外なのである。
 そんな男の主にカネにまつわるエピソードが満載だ。例えば第1章のタイトルが「1万7000円」…これ、村西氏が初めて働いて得た初任給の金額。
 第4章「600万円」は、摘発を逃れるため刑事たちに渡していた裏金の1カ月の総額。
 さらに第15章「50億円」は借金、第16章「8000万円」は金策に奔走して借りたカネ。
 その他、第9章「4本」は、撮影で共演した黒木香の陰部に挿入した指の本数、第19章「14億人」とは、村西氏が今後のターゲットとしている中国の人口…と、数字の羅列だけを見ても、この男がいかに破天荒な生き様を貫いてきたかが、うかがえる。
 痛快といえば痛快だが、半面、周囲をトラブルに巻き込みながら、一向に懲りずに前進する姿は、はた迷惑この上ない希代のホラ吹きともいえよう。
 だが、読んでいて引き込まれる。日本人が忘れたフロンティア精神が、村西氏にあるからかもしれない。
 ノンフィクション作家の本橋信宏氏が執筆。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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