紗綾 2019年8月1日号

400円台目前の“疑心暗鬼”牛丼新サバイバル戦争勃発

掲載日時 2014年12月28日 12時00分 [社会] / 掲載号 2015年1月1・15日号

 牛丼チェーンの吉野家が12月17日から牛丼など25商品を30〜120円値上げした。牛丼の並盛りは80円値上げの380円、牛丼大盛りは90円値上げして550円になった。米国産牛肉の価格高騰と円安が最大の理由である。
 値上げ発表直後には持ち株会社である吉野家ホールディングス(HD)の株価が落ち込んだ。ネットの掲示板には「客離れが加速する」などと前途を危ぶむ書き込みが目立ち、「客単価が上がって粗利が増える」との見立ては少数派だ。

 無理もない。吉野家は今年4月の消費増税に伴い280円だった牛丼の並盛りを300円に値上げしたばかり。1年間で2回の値上げ自体が異例である。だからこそ記者会見した河村泰貴社長は「牛肉価格が一本調子で高騰し、企業努力ではカバーし切れない」と釈明した。
 米国産牛肉は干ばつで出荷量が減少していることに加えて、中国など新興国での需要が増えたことから「この1年間で価格が2倍に高騰している」(関係者)。そこへ急速に進む円安の影響もあって、吉野家は2015年の調達コストが'14年比で100億円膨らむと試算している。これが苦渋の決断の背景だ。

 むろん、事情は各社に共通する。松屋フーズ傘下の松屋は4月に280円から290円に値上げし、吉野家よりも10円安いことを“売り”にした。ところが7月からは牛丼を刷新、関東1都6県で380円の『プレミアム牛めし』を投入し、実質的な値上げに踏み切ったことから業界には驚きが走った。
 「牛丼各社はつい最近まで壮絶な値下げ競争を展開し“体力の消耗戦”と揶揄されてきた。その先陣争いを演じてきたのが松屋とゼンショー傘下の『すき家』です。その片割れが首都圏限定とはいえ、大幅値上げに踏み切ったのだから『そうか、松屋はそこまで追い詰められたのか』と受け取る向きが少なくなかった。吉野家とすれば、松屋が値上げの“露払い”役を演じてくれたのは、渡りに船というしかありません」(証券アナリスト)

 吉野家と松屋が380円で足並みをそろえたことで、今後の注目はすき家の動向に移る。すき家は4月の消費増税を機に280円だった牛丼並盛りを270円に値下げし、ライバルとの違いをアピールした。吉野家、松屋の値上げ組を敬遠する客を一気に取り込もうとの作戦であった。
 しかし、親会社のゼンショーHDは'15年3月期に75億円の最終赤字('14年3月期は11億円の黒字)に転落する見通し。赤字垂れ流しは創業以来、初めてのことだ。そこで苦肉の策として8月には牛丼並盛りを291円に値上げした。吉野家や松屋よりも価格を安く設定したのがミソである。

 その魂胆がどうであれ、すき家が屈辱の赤字に塗れた理由はあらためて説明するまでもない。要するに深夜1人勤務の“ワンオペ”に代表される苛烈な勤務実態に愛想を尽かしたアルバイトの造反が相次ぎ“ブラック企業”の烙印を押されたことで、現場の体制を見直さざるを得なくなった結果、赤字地獄のどん底に陥ったのである。
 何せ吉野家と松屋が24時間営業を続けているのを尻目に、すき家は深刻な人手不足から全店舗の6割が深夜営業を休止している。これでは昭和57年創業の後発ながら急速に店舗を拡大し、安さを武器に業界トップの座に躍り出たゼンショーHDのオーナー、小川賢太郎会長兼社長が歯ぎしりするのもうなずける。

 果たして、すき家は対抗値上げに踏み切るのか。まだ同社は戦略を明らかにしていないが、業界関係者は「カウントダウン段階に入ったのは間違いない」と口をそろえる。その根拠として挙げるのは11月27日に発売した『牛すき鍋定食』の価格を734円に設定したことだ。吉野家が昨年に続いて10月末から販売を始めた鍋商品の『牛すき鍋膳』は今回、630円の価格を据え置いたまま。同じ鍋物でもすき家が100円以上も高い。安さを前面に出し、業界トップに躍進したすき家が高価格商品で吉野家に“挑戦状”を突き付けた以上、主力の牛丼でも「追随する可能性が大。そうでなければ赤字幅が膨らむ」との見立てである。
 「世の中には逆転の発想がある。低価格に据え置けばお客が群がり、先行値上げ組が悲鳴を上げる。この場合、作戦が裏目に出たら悲惨です。ゼンショーの小川会長が、そこまで腹が据わっているかです」(前出のアナリスト)

 同じことが吉野家の河村社長や松屋フーズの緑川源治社長にもいえる。すき家が再び体力勝負の安売り作戦に打って出れば壊滅的ダメージをかぶりかねない。円安の材料高も今後の足かせとなる。
 牛丼価格400円台が視野に入ってきた今、すき家の“次の手”が牛丼業界の命運を握りそうだ。

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