菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(116)

掲載日時 2016年08月07日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年8月11日号

◎快楽の1冊
『ジニのパズル』 崔実 講談社 1300円(本体価格)

 第155回芥川賞受賞作品が発表された。本作『ジニのパズル』は候補作として名が挙がっていたのだけれど、受賞は果たせなかった。しかしながら、候補になるということ自体、その作品の出来がいいことの証しとも言える。あまた、さまざまな小説が発表されているが、芥川賞、直木賞の候補になるのは、言うまでもないけれど、とてつもなく難しいことだ。すでに、第59回群像新人文学賞を受賞している作品だ。4月に受賞が発表され、7月に刊行された。作者は1985年生まれの女性である。
 主人公は日本で生まれた韓国人の女の子だ。名前はジニ。物語の冒頭、彼女はアメリカ・オレゴン州の高校に通っている。しかし、学業をまともに習得する気持ちはさらさらなく、退学になる目前だ。
 そう、ジニは明らかに不良少女である。けれど、非常に純粋でもある。ホームステイをさせてもらっているステファニーは絵本作家だ。彼女はジニの純粋さを理解している。一緒に旅行をし、会話を楽しむうちにジニはまだ日本の朝鮮学校にいた頃を思い出す。この思い出が本作のストーリーのメーンなのだ。
 もともとは日本人が通う、ごく一般的な小学校の生徒であった。自分が在日韓国人という意識は希薄だったのだ。しかし、中学からは朝鮮学校の生徒になった。希薄だった意識、つまりは日本人のような、そうでないような気分を抱いていたジニは、中学生になってから初めて自分のアイデンティティーについて悩み始める。1998年、テポドンが発射された。彼女の苦悩はますます強まる。
 世のすべての不良が苦悩の産物とは言えないけれど、ジニは平均より真面目に自分を見つめるあまり不良になったのだ。彼女の素行の悪さと純粋さの共存は多くの読者から共感を得るだろう。悪っぽくて、でもひたむきな青春小説だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 別冊宝島が4月に発売した『性愛の日本史』(宝島社/1100円+税)は、面白い書籍だった。
 歴史上のさまざまな人物や出来事を通じ、日本人の性愛観をたどる1冊。出来事とは、つまり当時の著名人たちによる“セックス・スキャンダル”のこと。最古の歴史書『古事記』に登場するイザナギとイザナミの兄妹による近親相姦によって、日本が誕生した事件に始まり、時の女帝・孝謙天皇を性の虜にしたといわれる怪僧・道鏡。さらに織田信長ら戦国大名たちの名も見られる。
 今も昔も著名人は醜聞まみれ。日本のヒストリーとは、色恋沙汰に躍起の好色家たちに彩られてきたことが分かる。
 また、鎌倉時代末期、京都の寺で制作され、長く秘本とされてきた絵巻物『稚児之草紙』がカラーで掲載されているのも興味深い。
 『稚児之草紙』は、女人禁制の寺の中で僧侶が稚児を性愛の相手として寵愛していたことを示す、一級品の資料だ。丁字油という植物からとったローションを使い、少年のアナルを“調教”する作法などが描かれており、ゲイの間では有名な書物だそうだ。
 また、古春画の最高傑作と称される『小柴垣草紙』も取り上げている。こちらは平安時代末期に、内裏でいとなまれていた貴族たちのセックス事情を、扇情的につづった内容だ。
 書籍のサブタイトルは「快楽と狂乱の歴史秘話」。日本人はスケベな民族といわれるが、こうした春画を見るにつけ、それも納得させられる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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