葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(132)

掲載日時 2016年12月03日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年12月8日号

◎快楽の1冊
『赤へ』 井上荒野 祥伝社 1400円(本体価格)

 第29回柴田錬三郎賞を獲得した短篇集である。刊行は今年6月、受賞が発表されたのは10月だ。作者はすでに直木賞などいくつもの賞を得ており、今回さらに高く評価された。
 全10篇はそれぞれ独立している。主人公は作品ごとで違っており、連作短篇集ではない。しかし、1冊全体でコンセプトがはっきりしている。どの作品も人の死がテーマだ。
 死を描く小説というと、例えばミステリーやアクション・ストーリーなどがすぐ連想されるけれど、本書はそういう類いのものではない。まさしく、現実に生きている私たちの身近に横たわっている死を見つめ、それを再現するような、真に迫る筆致に心打たれるのだ。
 「時計」は、あるアクシデントでとても近しい人間を殺してしまう悲劇を描いている。逆に「ボトルシップ」は大して親しくもなかった知り合いの病死がどうしても気になる女性が主人公だ。表題作「赤へ」は妻が自殺して残された男の心境を描き、その他、病死した母親のことを何度も思い返す女性作家、娘の同級生の自殺に動揺し続ける主婦など、作品ごとにさまざまな主人公が登場する。
 動物は必ず死ぬ。人間も動物なのだから、同様である。しかし、私たちの多くはそれをあまり意識しないで日々を送っている。どうせ、いつかは死ぬのになぜ生きているのか、と考え始めると気力が失われる。なるべく長生きしたい、と思う。だが実際は大病、事故、自殺などによる死は珍しいものではない。それが他人の死であっても、遭遇すると私たちは恐ろしくなる。
 この短篇集は死を特別視していない。普通に世の中にあること、と解釈している。残された者は恐ろしさ、悲しみなどを抱くのだけれど、それが現実なのだ。日々、仕事をし、趣味を楽しむのと同じく、死に遭遇することも人生に含まれている。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 年の瀬が近づいてくると話題に上るのが来年のNHK大河ドラマ。2017年は女優の柴咲コウが主演を務める『おんな城主 直虎』が放送される。女性でありながら直虎という名を授かって戦国時代を生き抜き、後の徳川普代筆頭大名・井伊家の礎を造った姫の生涯を描くという。
 そこで読みたいのが、大河ドラマ鑑賞の予習となりそうな『戦国の女城主 井伊直虎と散った姫たち』(徳間書店830円+税)だ。井伊家の息女として生まれながら、なぜ男性名を名乗り家督を継がなければならなかったのか、激烈な時代をどう切り抜けたのか、などが詳細につづられている。
 この時期になると大河ドラマ関連書籍は数多く刊行されるが、手頃な文庫サイズでありながら、直虎の出自・家族・井伊家の歴史に至るまで中身は厚く、戦国武将としては知名度の低い直虎を知るには最適な1冊といえよう。
 その他にも、戦国に散った13人の姫たちの一生も取り上げている。織田信長の妹として有名なお市の方、細川家の奥方だったガラシャ夫人をはじめ、鍋島藩を生んだ賢女・慶?尼、豊後国(現在の大分県)の大友宗麟の元で薩摩軍と戦った妙林尼といった、男たちを支えて生きた人々にも焦点を当てている。歴史に埋もれた女丈夫や女傑の生きざまが、まざまざと伝わってきて、おもしろく読める本だ。
 著者は歴史探偵家の高橋伸幸氏。分かりやすく、かつ説得力のある内容で、ドラマ鑑賞のお伴として重宝できそうだ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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