仲村美海 2018年10月11日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第165回 マイナス金利政策という緊縮財政

掲載日時 2016年03月11日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年3月17日号

 日本銀行の「マイナス金利政策」が、奇妙な結果をもたらしている。国内の銀行などが日本銀行に持つ「日銀当座預金」の残高の一部(政策金利残高)に、▲0.1%の金利を課すマイナス金利政策により、
 「政府が得をし、銀行や預金者が損をする」
 という状況が生まれつつあるのだ。

 日銀のマイナス金利政策で、銀行は日銀当座預金残高(総額は250兆円を超える)のうち10兆円ほどの政策金利残高に対し、金利を受け取るどころか、支払う羽目になってしまった。というわけで、本来であれば銀行から民間の企業、家計への融資が増え、消費や投資という実体経済(GDPのこと)が活性化するはずなのである。
 ところが、現在の日本はデフレ環境が継続し、民間企業は「投資してももうからない」状況に置かれている。筆者も経営者の端くれだが、われわれ経営者がなぜ設備投資をするのか。単純に、もうけるためだ。もうからない、つまりは投資利益が不十分な状況では、たとえ金利がどれだけ低くても経営者は投資判断を下さない。

 あるいは、消費者が消費を増やすのは、いかなる時期だろうか。簡単である。生産者として働き、稼ぎだした所得が実質値で安定的に増えている時期だ。すなわち、実質賃金が継続的に上昇していく環境になる。
 現実の安倍政権は、2013年、'14年、'15年と、3年連続で日本国民の実質賃金を減らした。言い換えれば、国民を貧困化に追いやった。毎年、貧乏になっていく状況では、国民は金融政策と無関係に消費を増やさない。いや、増やせない。実際、昨年の日本国民の実質消費は、信じ難い話だが民主党政権期('12年)をも下回ってしまった。

 安倍政権にデフレ対策を丸投げされた格好になった日本銀行は、現在も主に長期国債について保有残高が年間約80兆円増額となるように買い入れを行っている。いわゆる量的緩和政策である。とはいえ、何しろ日本銀行が国債を買い取り、日銀当座預金残高を増やすマネタリーベース拡大政策の裏で、安倍政権が消費税増税や公共事業削減など、緊縮財政に明け暮れているのだ。
 国民や政府がモノやサービスを買わない以上、日本銀行がどれだけ膨大なおカネを発行(=日銀当座預金残高の増額)したところで、インフレ率は上がらない。インフレ率とは、購入されたモノやサービスの価格変動のことなのである。
 黒田日銀発足以降、すでに日本銀行は200兆円(!)を超すおカネを発行したが、インフレ率は日銀定義のコアCPI(消費者物価指数=CPIから、生鮮魚介、生鮮野菜、生鮮果物などの生鮮食品を除いた指標)でわずか0.1%。事実上の「ゼロインフレ」の状況が継続している。

 というわけで、追い詰められた日銀が2月16日、マイナス金利政策をスタートさせたわけだが、結果的に銀行が追い詰められてしまった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の試算によると、マイナス金利政策で国債金利が下がり、政府が得をした分、銀行が負担を背負うという形になってしまっているようである。国債金利低下による、日本政府のネットの「得」は1.2兆に達する。家計は預金金利低下分が住宅ローンの金利下落でカバーされ、政府が得をした分の負担は主に銀行(0.7兆円の損)が負わされている。
 現時点では、住宅ローン金利が低下(これも銀行の「損」になる)したため、預金金利を引き下げられているとはいえ、預金者の「損」はそれほどでもない。ただし、今後の銀行が預金者への事実上のマイナス金利、すなわち「口座手数料」導入に踏み切ると、負担は家計に回されることになる。

 重要なのは、今回のマイナス金利政策が「政府が民間から所得を吸い上げる」という一種の緊縮財政効果をもたらしている点だ。詰まるところ金利という媒体を通じ、われわれの所得が政府に移転してしまっているのだ。
 むろん、金利低下により恩恵を受けた政府が、それ以上の「財政支出」の拡大に踏み切れば緊縮財政にはならない。とはいえ、現状の安倍政権は、財政政策の拡大に舵を切り直す素振りすら見せていない。

 黒田日銀総裁は、金利低下を受け、
 「今後、実体経済や物価面にも波及していく」
 と、発言した。実体経済への波及とは、「総需要(消費と投資)の不足が解消する」という意味になる。デフレは総需要の不足であり、貨幣現象ではない。どれだけ日本銀行が量的緩和を拡大しようとも、金利を引き下げようとも、国内で消費や投資が増えない限り実体経済は拡大しない。結果、総需要の不足は終わらず、デフレ脱却はできない。

 繰り返すが、今回のマイナス金利政策は、現状は「緊縮財政」になってしまっている。つまりは「総需要抑制策」だ。
 結局、総需要の不足という根本的な問題から政府が目をそらし続ける限り、金融政策は「歪み」を引き起こさざるを得ないことが理解できる。日本政府には国債金利が「超低迷」している以上、普通に建設国債を発行し、リニア新幹線や整備新幹線、高速道路建設といった「実体経済」における支出を増やしていくことを切に求めたい。

 政府がこのまま緊縮財政を続ける場合、デフレ脱却は果たせず、国民の貧困化が終わらないのに加え、日本銀行が追い詰められることになる。金融市場の国債不足が理由で日銀の量的緩和が終了した場合、超円高が発生し、最悪、日本が世界金融危機の引き金になりかねないのだ。この種のカタストロフィーを回避するためにも、政府は国債増発と財政出動に踏み切る必要があるのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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