本好きリビドー(222)

エンタメ・2018/10/06 15:00 / 掲載号 2018年10月11日号

快楽の1冊
『決戦! 関ヶ原』
伊東潤、吉川永青、天野純希、上田秀人、矢野隆、冲方丁、葉室麟 講談社文庫 800円(本体価格)

★7人の作家が描く天下分け目の戦場
 何より本書は企画の勝利だろう。歴史好き、戦国ファンなら誰もが舌なめずりする関ヶ原の大舞台を、合戦の当事者たる7人それぞれ異なる視点から、さらにそれを7人の作家に各自で描き分けさせるという、ちょっとぜいたくな“競作長篇”の試みに大拍手だ。

 徳川家康、石田三成のいわば主役2人は当然ながら、日本史上最大の裏切り者としてその名が永遠に語り継がれるであろう小早川秀秋、堂々の敵中突破がまぶしすぎる島津義弘、最近とみに注目の集まる宇喜多秀家に加え、脇役にしてはシブいにもほどがある可児吉長、果ては正直この決戦ではエキストラにも値しなかったようにみえる織田有楽斎(東京・有楽町の名の由来になった信長の弟)は一人称の独白体で…といった人選の妙。

 講談でいえば赤穂義士銘々伝をまとめて聴くような、あるいは落語なら五代目志ん生と八代目文楽、または六代目圓生と八代目正蔵のリレーで、例えば「子別れ」や「三軒長屋」といった長講の大ネタが味わえるのに通ずる楽しみが満喫できる実験、お得感この上なし。

 ところでこの実験、単行本の初版段階で好評を呼んだらしく、以後、やはり一つの戦場を複数の書き手が描く恒例の“決戦!”シリーズ化され、現在「大坂城」「本能寺」「川中島」「桶狭間」と続き、遂には番外編的に「三国志」までが刊行だとか。

 そこまでやるなら逆に提案したい。タイトルに漢字3文字の縛りを尊重して「太平洋」、ミッドウェー海戦を山本・南雲・山口・ニミッツ・スプルーアンスの各提督の目でつづるとか、あるいは「総裁選」なんてのはいかがか。無論、ただいまのに非ず、“三角大福中”なんて言われて自民党がドロッドロの頃を念頭に。修羅場の度合いなら決して引けを取らぬはずでは?
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 春画の人気は、いつまでも衰えない。セックスの常識を逸脱するような奇抜な体位や、リアルに描かれた性器、恍惚とした表情を浮かべる日本髪の女性が、エロチックに映るからだろう。

『カラー版 春画四十八手』(光文社/840円+税)は、そんな妖艶な世界を文庫サイズ、カラーで余すところなく紹介したお得版だ。

 特に菱川師宣という、江戸時代初期に活躍した絵師の作品を解説しているところがうれしい。師宣は『見返り美人』の美人画で有名な作家だが、好色本や四十八手の考案者ともいわれており、今なお絶大な人気を誇っている。

 その師宣が描いた元祖四十八手を1枚1枚丹念に掲載し、かつ歌麿や北斎といった後世の絵師たちに与えた影響なども紹介。これだけで浮世絵のすべてを知り尽くせるほどの内容だ。

 また、この本を読むと春画がセックス体位を描いただけの官能的な絵ではなく、男と女の出会いと熱い情交をつづったラブストーリーだったことが分かる。登場する女たちは遊郭の娼婦や流しの遊女といった現代でいう風俗嬢が多いのだが、今の女性よりはるかに色っぽいのも特徴だ。

 つまり単なる「エロ」ではなく、女の優美さや、それに溺れる男の切なさなども同時に伝える、江戸時代のメディアだったわけだ。だから男に限らず、女も熱狂した。そうした点は、現代と何ら変わらない。ラブストーリーはいつの時代も人々を魅了する。日刊ゲンダイの人気連載企画『春画のウラ側』の書籍化。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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