世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第132回 亡国の財政政策

政治・2015/07/07 13:00 / 掲載号 2015年7月16日号

 安倍(晋三)政権は6月22日の経済財政諮問会議と産業競争力会議において、6月末に閣議決定を目指す経済財政運営指針、いわゆる「骨太方針」の素案を提示した。
 骨太方針では、2020年度までの基礎的財政収支(プライマリーバランス、以下PB)黒字化を目指し、さらに2017年度までにPB赤字対GDP比を、15年度の3.3%から1%程度に引き下げるという中間目標が設定された。中間目標を達成できない場合は、追加的な措置を講じるという。

 まずは、基礎的な知識を抑えて欲しいのだが、財政健全化とはPBの黒字化でもなければ、政府の負債の削減でもない。財政健全化の定義は「政府の負債対GDP比率の引き下げ」であり、それ以外には存在しない。
 そして、PBの黒字化とは、政府の負債対GDP比率引き下げの一手法でしかないのだ。

 財政健全化するか否かは、
 「プライマリーバランス(PB)」
 「国債金利」
 「名目GDPの成長率」
 の三つの組み合わせで決まる。

 例えば、PBが赤字だったとしても、国債金利が低く、名目GDP成長率が十分であれば、財政は健全化する。
 手段の一つでしかないPBを“目標”に掲げるわけで、現在の安倍政権の財政政策はナンセンス極まりないのだ。

 とはいえ、それ以上に酷いのが自民党で、稲田朋美政調会長が委員長を務める党財政再建に関する特命委員会は、PB目標に加えて「歳出削減の目標」まで「骨太方針」に押し込もうとしていた。
 結果、歳出増加の「目安」という、良くわからない目標的なものが方針に入る、玉虫色の決着となったわけである。

 いずれにせよ、いまだ政府(内閣府)自ら、デフレギャップが存在することを認めているデフレ国において、PB目標や歳出削減の目標を立てようとしているわけで、話にならない。
 結局、安倍政権も自民党も、かつての民主党政権同様に財務省に取り込まれ、亡国の財政政策路線を突き進むことになるわけだ。

 そもそも、安倍政権が根底から間違えているのは、本気でPBの黒字化を目指すならば、短期的な財政出動に踏み切るしかないという事実を無視している点だ。
 京都大学大学院工学研究科の藤井聡教授(現、内閣官房参与)のレポート「デフレーション下での中央政府による公共事業の事業効果分析」において、我が国の過去のデータに基づく限り、中央政府の公共事業1兆円の増加により、名目GDPが約5兆円増加することが証明されている。
 さらに、名目GDPの拡大を通し、GDPデフレーター(名目GDPから実質GDPを算出するために用いられる物価指数)、失業率、平均給与、被生活保護者数がいずれも改善し、最終的に総税収が1.6兆円、出生数が1.7万人増加するという分析結果が明らかにされているのだ。

 おわかりだろうか。公共事業を追加的に1兆円実施することで、税収が1.6兆円増えるのである。理由は、公共事業の乗数効果と、高い税収弾性値が二重で効いてくるためだ。
 公共事業を1兆円実施すると、少なくとも国民の所得が同額増える。所得が増えた国民は、消費や投資を増やすため、日本の名目GDP(消費や投資の合計)は当初の1兆円以上に増える。これを、乗数効果と呼ぶ。
 さらに、名目GDPが増える、つまりは景気が好転すると、これまで赤字だった企業が黒字化し、法人税を支払い始める。加えて、失業者が雇用されていけば、所得税収も増える。
 結果的に、現在の日本では名目GDPが1%成長すると、税収は3%から4%増えることになる。これが、税収弾性値による増収効果だ。

 公共事業を拡大し、名目GDPと税収が増えれば、何が起きるだろうか。
 「歳出が減り(※景気対策が不要になるため)、歳入が増え、PBが黒字に向かう」
 という結果がもたらされるのである。
 ここまで書いたところで、俄かに信じられない読者も多いだろうから、データで示そう。

 右下の図(本誌参照)は日本の一般政府の資金過不足状態の推移を見たものだ。図の「マイナス」方向に棒グラフが伸びているのが、政府の資金不足、つまりはPBの赤字である。
 1987年から1991年まで、政府の資金過不足がプラス、すなわちPBの黒字になっているのが確認できると思う。
 当時の日本はバブル経済に沸き、政府の税収は膨れ上がっていた。
 同時に、景気対策を打つ必要などなかったため、「=歳入−歳出」で計算される政府のPBが黒字化したのである。

 ところが、'97年の緊縮財政、'98年のデフレ突入以降の日本は、
 「デフレで需要不足であるため、需要創出のための公共事業拡大」
 ではなく、
 「デフレでPBが悪化したため、とりあえずの策として公共事業を削り、PBを悪化させる」
 を続けてきたのである。PBを改善したいならば、公共事業を拡大し、名目GDPと税収を増やさなければならないにもかかわらず、その逆を継続し、PBを悪化させてきたのだ。

 国家というのは「政治」によって衰退すると、つくづく思い知ったのではないだろうか。
 政府が「PBを黒字化したいならば、短期的に公共事業等を増やし、名目GDPと税収を増やさなければならない」という基本を理解しない限り、今年度の我が国は普通にデフレ化し、PBの赤字は、またもや拡大していくことになるだろう。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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